身体に装着、スマホと連動しデータを活用
様々なタイプのウエアラブルデバイス(ウエアラブル端末)が存在するので、現状のウエアラブルデバイスを一言で表すことは難しいが、大まかには次のような特徴を持った機器ということができるだろう。(1)例えば手首など、身体のいずれかの場所に装着するタイプの機器である。
(2)様々なセンサーが内蔵されており、そのセンサーを通じて身体に関する様々な情報を取得する。
(3)スマートフォンと連動して、ウエアラブルデバイスから取得したデータを参照する。
(4)スマートフォンと連動して、インターネットから入手したデータをウエアラブルデバイスに表示する。
現時点で我々が目にする機会が多いものは、手首に装着して、歩数、睡眠時間などの人間の活動量を計測するタイプのものだ。集められたデータはスマートフォン(スマホ)などを経由して見ることができ、利用者の健康状況の把握をすることができる。ナイキやアディダスといったスポーツメーカーなど多数の企業がこの分野に参入している。
同じく手首に装着するウエアラブルデバイスとして、時計型のスマートウオッチもある。スマートウオッチは活動量を計測する以外に、スマートフォンと連動して自分に届いた電話やメッセージ、またはスケジュールなどを手首に装着された時計型のデバイスで確認することが可能である。将来的には、時計の画面にQRコードを表示させて飛行機のチケットの代わりにするといった使い方も考えられている。LGやサムスンといったメーカーが既にスマートウオッチを販売しており、アップルもスマートウオッチApple Watch(アップルウオッチ)を2015年から販売することを公表した。
メガネ型から衣服型まで、広がるスタイル
また、ウエアラブルデバイスの中でも大きな期待を集めているのがメガネ型のウエアラブルデバイスだ。詳細は以下で説明するが、グーグルが開発するGoogle Glass(グーグルグラス)が代表的な事例だろう。メガネを装着することによって、あたかも目の前にパソコンやスマートフォンの画面が浮かんで見える点が特徴である。
これ以外に特徴的なものとしては、グーグルが開発に携わっている、血糖値を測定することが可能なコンタクトレンズ型、心拍数などを測定するTシャツ型、またランニングフォームなどを計測するソックス型、指輪を装着して家電やその他のモノをコントロールする指輪型といった、普段我々が身につけている衣服やアクセサリーにセンサーを搭載して、利用者の健康や生活の向上に活用しようとする動きがある。その他、頭にウエアラブルデバイスを装着し、脳波の測定を通じて、集中やリラックスの状況を計測し、集中している状況を作り出すためのフィードバックを得ることができるものもある。
さらに、装着対象は大人だけではなく、子ども向けのウエアラブルデバイスも登場してきている。子どもの衣服にセンサーを装着して、心拍数などを計測して親が健康状況を把握するものや、通信機能やGPSを搭載した腕時計型のデバイスを装着することにより、親のスマートフォンなどから子どもの居場所を確認することができるものが存在している。
以上、現在あるウエアラブルデバイスを簡単に紹介してきた。次には、今後注目のウエアラブルデバイスとそのウエアラブルデバイスが導入されたことによって、我々の社会にどのような変化がもたらされるのかをみていこう。
注目を集めるグーグルグラス
こうしたウエアラブルデバイスの中でも、大きな注目を集めているのがグーグルグラスだ。グーグルグラスは、2012年6月にグーグルが発表したメガネ型のウエアラブルデバイスである。既に、13年2月にアメリカのアプリケーションなどの開発者向けに試作機として有料(1500ドル)で販売され、14年4月には一般消費者向けにも1日限定で販売された。グーグルグラスに対する注目度を裏付けるかのように、一般消費者向けのグーグルグラスは即日完売した。グーグルグラスにここまで注目が集まる理由はなぜだろう。グーグルグラスの大きな特徴は、メガネの右側に約1センチ四方のプリズムが搭載されていることであろう。このプリズムには、メールなどのテキストメッセージ、インターネットコンテンツ、写真、地図などを投影することが可能だ。ただし、グーグルグラス単体でこれらの機能を利用することはできず、インターネットを利用するためにスマートフォンとの接続が前提とされる。また、グーグルグラスには、写真や動画が撮影可能なカメラを搭載している。スマートフォンでは、手に持って写真や動画撮影する必要があるが、グーグルグラスではハンズフリーで撮影することができるので、歩きながら、あるいは自転車などの乗り物に乗りながら撮影することができる。
スムーズな音声操作、改善の余地も大きい
では、これらの操作はどのように実行するのか。スマートフォンでは、スクリーンをタッチ操作することで様々な機能を利用することができるが、グーグルグラスの場合、プリズムにタッチセンサーは搭載されていない。グーグルグラスで採用されているのは音声による操作である。グーグルグラスを装着した状態で、「Ok Glass」と発声した後、続けて操作に関する特定のコマンド、例えば「take a picture」(写真撮影)を発声すると撮影できるというものだ。グーグルグラスの音声認識は非常に優れており、騒音の中でも的確に反応するようになっている。ハンズフリーで様々な操作を可能にしているグーグルグラスは、普通のメガネをかけているかのように、日常生活で自然に利用できるものを目指している。
ただし、現状のグーグルグラスは、完成形とはいえない。グーグル自身も、グーグルグラスを試作段階(エクスプローラー・エディション)と位置づけている。
グーグルグラスが持つ課題の一つとして、バッテリーの問題がある。動画撮影、ナビゲーションなど、グーグルグラスの機能をフルに活用した場合、現時点では2時間程度で利用ができなくなってしまう。バグも複数見つかっており、まだ改善の余地は残されている。技術の進歩とともに課題が解決されれば、スマートフォンと同等なインパクトを世の中にもたらすことになろう。
マンガ「ドラゴンボール」の世界が現実に
メガネ型ウエアラブルデバイスの発展と普及により、将来的にはこのデバイスが我々の日常生活に大きな変化をもたらすと考えられる。日常会話やビジネスシーンにおいて、スマートフォンを取り出し、インターネットで検索するといった行動が一般的となっているが、メガネ型ウエアラブルデバイスでは、スマートフォンを取り出すことなく、瞬時にインターネットを検索することが可能である。会話の流れを途切れさせることなく、より自然な形で情報を得ることができるだろう。現時点ではグーグルグラスは音声コントロールでインターネットの情報を検索する必要があるが、将来的に技術が発展すれば、搭載されているカメラを利用し、視界にあるモノや人に関する情報を、プライバシーや個人情報の問題はあるが、自動的にインターネットから取得する機能が導入されても不思議ではない。まさに、マンガ「DRAGON BALL(ドラゴンボール)」(鳥山明著、集英社)に登場する「スカウター」と同じような機能だ。
例えば、海外旅行で初めての場所を訪ねた際に、地図や重いガイドブックを持ち歩かなくても、目の前のスクリーンにガイドが表示され、スムーズに目的地まで到達することが可能になるかもしれない。