そういう視点で見ると、似たような問題は世界中で起きていて、捕鯨だけではなく、グローバルスタンダードが強引なかたちで、隅々まで押し寄せているように思います。
森下 そうですね。捕鯨問題は環境問題の象徴とよく言われますが、違うものも多く象徴しています。大事なのは、IWC脱退は決してゴールではないということです。脱退を経て捕鯨問題がなくなるのではなくて、フェーズが変わるだけなんです。ですから、このあとどうするかというビジョンがとても大事になると思います。
私は、脱退後も日本はオブザーバーとして胸を張ってIWCに参加するべきだと言っています。それは商業捕鯨以外の問題について、今後も訴え続けないといけないと思うからです。人類はクジラを含む様々な生物を資源として利用してきて、これからも利用していくでしょう。もちろんその生物資源を枯渇させないように持続可能な形で利用していかなければいけません。しかし、特定の価値観や感情で、この生物は利用していい、いけないと他の国や民族に押し付けてはだめです。グローバリズムとか、世界の世論の名の下で環境帝国主義や環境植民地主義がはびこることには抵抗しなければなりません。これは地産地消、環境保全にもつながる考え方です。
佐々木 IWCを脱退しても、日本に発言権はあるのでしょうか。
森下 どこの国際機関でも非加盟国が発言する権利はあるし、文書を出してもいいんです。例えばアメリカは、国連海洋法条約のメンバーでもないし、生物多様性条約のメンバーでもないですよね。にもかかわらず、アメリカは大きな代表団を送っていちばん大きな顔をしていろいろ議論したりする。私としては今後も日本は会議に参加して、今までと変わらず他の持続的利用支持国を毎日集めて議論するべきだと思います。私もまだ行く気満々です(笑)。
佐々木 ぜひ森下さんには、これからも日本語だけでなく、英語でぜひ発信して、主張し続けていただきたいですね。
※2019年2月21日、東京・品川で、映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』上映会と森下丈二さんと佐々木芽生さんの対談イベントが開催されます。