このように、収益構造で見れば「カジノのためにIRがある」というのが実情であり、「カジノはIRの一部でしかない」と言うのはどう考えても無理があると言わざるを得ない。
自治体が誘致するIR型カジノの莫大な利益はどこに行くのか?
次に、IR全体の50~80%超を稼ぎ出す、莫大なカジノの収益が「どこにいくのか?」についても見てみよう。
カジノが「儲かる商売」であることは間違いない。一般的にカジノの利益率(EBITA)は40%程度とかなり高く、アメリカの大手カジノ事業者、ラスベガスサンズの場合、利益の約20%を株主への配当等に回していて、その額は7年半で250億ドル(日本円で約2兆7500億円)にも上る。
しかも、ラスベガスサンズの場合、実質的な「家族経営」(株保有率は経営者のアドルソン氏本人が10%、妻49%)であるため、主な配当先はアドルソン氏と妻、そして、アドルソンファミリーの信託投資基金なので、莫大な利益の大半はアドルソン家の懐に流れ込む仕組みになっているのである。
ラスベガスサンズは横浜のIR誘致計画に強い興味を示していると言われるが、仮に横浜がIRを建設し、ラスベガスサンズが事業者に選ばれた場合、「自治体が誘致した施設」が生み出す莫大な利益の多くが国外の、それもアドルソン家という「個人の利益」となる可能性があるということになる。
一方、同じアメリカの大手カジノ事業者でもMGMリゾーツやシーザーズなどは「家族経営」や「個人経営」ではないが、こちらも莫大な利益が「配当」という形を通じて投資信託、銀行、個人投資家など「ギャンブルという確実にもうかるビジネス」に投資した一部の人たちの利益になるという基本的な構造は同じである。この「利益」とはすなわち、「ギャンブルで負けた誰かのお金」であることを考えれば、そこに何らかの「公益性」を見出すことは不可能だ。
「コンプ」によるIR施設への利益補填が地元経済の競争力を奪う
それでは、より広い意味での「経済波及効果」についてはどうだろう。「カジノ推進派」が主張する「地元経済への貢献」には、IRの誘致によって、観光客が増えたり、新たな雇用が生まれたりすることが期待されることに加え、カジノやIRの建設と運営がもたらす、さまざまな関連産業への需要などを総合的に考えれば「IR誘致による地元経済へのプラスは大きいのだ」と訴える。だが、本当にそうだろうか。地元経済への影響という意味では、IRの持つ「副作用」についてもきちんと検証する必要があるだろう。
副作用の例として、IR型カジノの特徴のひとつである「コンプ・サービス」について触れておきたい。これは、客がギャンブルで賭けた金の一定比率をポイントとして還元し、客はそのポイントでIR施設内の宿泊、飲食、娯楽、ショッピング等を無料、または割引で利用できるという、一種の「ポイント還元サービス」のことだ。これは現代のIRには欠かせないシステムで、例えば米国のアトランティックシティの場合、カジノの収益のおよそ3分の1がコンプ・サービスに費やされている。
既に述べたように、IR型カジノのビジネスモデルは「IR施設全体で集客し、その利益をカジノが刈り取る」という点にあり、IRに含まれるカジノ以外の様々な施設は「高収益のギャンブル」で稼ぐための客集めの手段でしかない。コンプ・サービスは、いわば、カジノの客集めのための「撒き餌」であると同時に、ギャンブルに負けた客にもポイント還元による「メリット」を感じさせることで、客により多くの「賭け金」を使わせるための巧妙な仕組みでもある。
このコンプ・サービスの存在を地元経済への影響という観点から考えると、IRの新たな問題点が浮かび上がってくる。それは、コンプ・サービスがIR内に入る様々な商業施設にとって、カジノの収益の一部を使った「利益補填」として機能しているという点である。客がポイントを使って宿泊、飲食、買い物などをした場合には、同等の額がカジノから店側に支払われることになっているのだ。そのため「IR施設内」のホテル、レストラン、娯楽・商業施設などは、「IR施設外」のライバルに比べて有利な条件で、より競争力の高い、安価なサービスを提供することが可能になる。
その結果、何が起こるのか。IR内であれば宿泊も食事も割安になる客が、わざわざIRの外に出ていこうとするだろうか。IRによって喚起された消費需要は、コンプ制度の受益者であるIR施設内の事業者によって囲い込まれ、一方、IR周辺にもとからあったお店などは、不利な条件での競争を強いられることになる。巨大なショッピングモールの進出が既存の地方商圏を破壊し、その利益が地元経済ではなく、一部の大企業に集約される構造と同様で、IRの誘致が本当の意味での「地域経済の活性化」を実現できるかといえば、甚だあやしい。
【「カジノが日本を食いつぶす!(後編)~個人資産をすり減らし、社会保障を圧迫するギャンブルの罠」に続く】
MICE
Meeting=会議、Incentive Travel=招待旅行、Convention=国際会議、Exhibition=展示会の頭文字をつなげた言葉。マイス。