ちなみに、横浜市がIR誘致によって年間1000億円程度の税金を得るには、そこから逆算してカジノの収益が少なくとも5000億~7000億円は必要になる。しかし、繰り返すが、カジノの収益とは「ギャンブルで負けた人が失ったお金」である。つまり、林市長は「賭博で年間5000億円近い巨額を客に負けさせること」によって、高齢者や子供たちの未来を支えたいと主張しているのだ。
これまで見てきたように、カジノが何をもたらすのかについて、他国の事例から考えてみれば、そこにあるのは、必ずしもバラ色の未来とは限らない。実際、横浜市ではIR誘致に対する市民による大規模な反対運動も起きており、既に住民投票や市長のリコールを求める動きも出ている。林市長が主張するように、IRの誘致が横浜市の将来に大きく影響するプロジェクトであるのならば、当然の前提として、徹底した情報公開と民意の反映という手続きが欠かせないはずである。
そうした丁寧な議論と、民意の反映というプロセスを経ず、他の都市との「IR誘致競争」という構図を強調した「食うか食われるか」のような議論で、富の奪い合いに首長が手を挙げるというのはよろしくない。地域住民の声も反映しつつ、民主的なプロセスに基づいて、IR誘致を巡る議論が進むことが必要ではないだろうか?