一方、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は望遠鏡を搭載した監視衛星の打ち上げを計画しており、宇宙監視レーダーと併せて効率よく宇宙空間を監視する体制が整うことになる。今や防衛省とJAXAは相互に補完する関係にある。
アメリカとの連携もある。すでに運用が始まり、2023年に3基の追加打ち上げが予定される測位衛星システムを搭載した準天頂衛星(日本の真上を通る)「みちびき」には、アメリカの宇宙監視機器を相乗りさせることが決まっている。
ミサイル防衛に関しては、2006年に日米で合意した米軍再編最終報告により、自衛隊とインド太平洋軍司令部(ハワイ)や在日米軍司令部(東京都)との間で、必要に応じて「共同統合運用調整所」が開設されることになっている。
宇宙を舞台にした「日米の一体化」は、もう始まっているのだ。
アメリカ国防総省は、迎撃不能になりつつあるロシアや中国の新型ミサイルに対処するため、2019年3月、宇宙開発庁を新設し、最大1200基の衛星コンステレーション網を構築する計画を発表した。22年までに20基の監視衛星を打ち上げ、25年までにシステムの中核となる250基による運用開始を目指す。
だが、使用する監視衛星の開発が難題となっている。1基数百キログラムの小型衛星になるため、寿命は約5年と短い。すると大量に生産する必要があり、1基当たり1000万ドル(約11億円)程度と安価であることが条件になっている。
すでにノースロップ・グラマン、レイセオン、レイドス、L3ハリスの4社が衛星網の開発を受注しているが、アメリカ国防総省はこれで十分とは考えていない。
日本の防衛省幹部は「アメリカは『衛星コンステレーションを一緒にやらないか』と協力を打診してきた。改定した宇宙基本計画とも符合するので、前向きにとらえている」という。
高い衛星技術を持つ三菱電機、NECなどが参加できるか模索する動きもあり、日米連携の下地は整ったといえるだろう。
問題は、衛星コンステレーションをめぐる日米連携が進めば、アメリカの戦略に組み込まれる可能性が濃厚になることだ。
アメリカ国防総省は、衛星コンステレーション構想が発表される以前の2013年、ロシアや中国の新型ミサイルに対処するため、「統合防空ミサイル防衛(Integrated Air and Missile Defense IAMD)」構想を策定した。
衛星コンステレーションがハードウェアだとすれば、IAMD構想はソフトウェアに当たる。いかに優れた機器であっても、そこに命を吹き込むシステムがなければ機能しない。IAMD構想はアメリカのミサイル防衛には欠かせない戦略なのだ。
IAMD構想は「敵のミサイル攻撃阻止のため、防衛的、攻撃的能力をすべて包括的に結集させる」としており、攻撃的能力の保有も含めている。防衛省が衛星コンステレーションの検討を進めれば、いずれIAMD構想への参加に踏み切らざるを得ない。
アメリカと連携すれば、米軍の情報をもとに自衛隊が敵基地攻撃に踏み切ったり、自衛隊の情報をもとに米軍がミサイルを発射したりする「武力行使の一体化」に踏み込むことになる。
浮上する「敵基地攻撃能力の保有」
政府は2018年に「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」を改定する際、IAMD構想への参加を検討したが、憲法上の問題が浮上するとして見合わせた過去がある。
だが、わずか2年の間に国内状況は大きく変化した。昨年6月、推進装置「ブースター」の落下問題をきっかけに、防衛省が秋田市と山口県萩市に配備する予定だった地対空迎撃システム「イージス・アショア」の導入を断念したのと引き換えに「敵基地攻撃能力の保有」が急浮上した。「守れないなら攻めろ」というわけだ。
そして昨年9月、当時の安倍晋三首相は「イージス・アショアの代替策」と「敵基地攻撃能力の保有」の検討を求める談話を残して、退任。「安倍政権の継承」を明言する菅義偉首相は12月の閣議で「イージス・システム搭載艦2隻」の建造を決めた。
「敵基地攻撃能力の保有」については、「抑止力の強化」と言い換えて「引き続き政府において検討を行う」として留保する一方、敵基地攻撃に転用できる「12式地対艦誘導弾能力向上型の開発」を決定した。
政策決定を先送りしつつ、長射程ミサイルは開発するという、一見、ちぐはぐな対応により、「敵基地攻撃能力の保有」はなし崩しのうちに実現する可能性が高まった。
その意味ではアメリカの衛星コンステレーション計画への参加もIAMD構想への「巻き込まれ」が既成事実となって、やはり「敵基地攻撃能力の保有」につながっていくのではないだろうか。
2021年度防衛費には、先の閣議決定を反映して「12式地対艦誘導弾能力向上型の開発(335億円)」が計上されている。
現在、百数十キロとされる射程は報道によると1000キロ以上に延長され、敵基地攻撃に転用できる。護衛艦や戦闘機から発射できるようファミリー化したうえ、レーダーに映りにくいステルス化を進める。交戦相手にとって脅威となるのは間違いない。