さらに両国関係を近づけているのはキューバ系アメリカ人コミュニティーの存在である。90年代から現在まで、毎年3万~5万人が主としてアメリカのフロリダ州へ移民している。これを支えるのは、アメリカが60年代から適用している「キューバ人調整法」である。同法により、キューバ人はアメリカ領土内に陸路で、あるいは海上でも足が海底につく状態で入国すれば、査証がなくとも自動的に入国が認められ、さらに永住権や市民権を得るにも優遇措置がある。
2009年にオバマ大統領が、キューバ系アメリカ人の親族訪問と親族送金を無制限に許可して以来、アメリカに住むキューバ系移民たちは、希望するだけ祖国に残した家族に会いに行くことができ、また親族の生活を支える送金を可能な限り行うことができるようになった。毎年延べ約40万人がキューバを訪問しているといわれる。彼らは最新の情報や流行などをキューバに残った親族に持ち込む。
他方キューバ人がアメリカにいる親族に招待されてアメリカを訪れるケースも増えている。キューバ政府は13年1月に、国民が国外に出る際に必ず必要であった出国許可を廃止した。渡航先の査証を得られれば、海外により容易に旅行できるようになったのである。それに対してアメリカ政府は、大量のキューバ人がアメリカに殺到しないよう、査証の条件を厳格化している。
◆キューバの望みは対等な関係
オバマ大統領の進める「草の根レベルの交流」は深化の一途であるが、両国関係は一部で期待されているほど迅速に改善には向かわないだろう。14年12月以来の両国関係の変化は、もっぱらオバマ政権が1960年代からの対キューバ強硬策を緩和することで生じており、キューバ側の変化はあまりない。そもそも冷戦期にアメリカ政府から一方的に科された敵対策なので、関係改善の過程でアメリカがそれらを一方的に引き揚げていくのも自然な流れではある。同時に、アメリカ政府がキューバに求めている民主化について、キューバ政府は内政干渉として拒絶、「対等な立場で話し合う」ことを一貫して要求している。
80年代に東欧で起こったように、アメリカとの接近によって両国民の草の根レベルでの交流が増え、アメリカの政治的・経済的・文化的影響が強まることで、キューバの革命政権が望まないような情報や価値観が流入する可能性がある。これはまさに、関与を通じて民主化を促そうとするオバマ大統領の狙いであるが、キューバ政府は当然これを警戒している。
したがって、今後キューバ政府が「アメリカが近づきすぎた」と感じたら、アメリカ国民のキューバ入国査証の発給を大きく減らすこともありうる。また、1回目の国交正常化交渉の席で、キューバ政府は、アメリカ議会の賛成が必要な「経済制裁の全面解除が国交正常化の前提条件」だと言明したように、実現困難な条件を前面に持ち出し、交渉の進展を遅らせる手段に出るであろう。
その意味では、オバマ大統領とラウル・カストロ議長が共に政権についている間にどこまで両国関係が変化するかは、キューバ政府の対応にかかっている。その後は、アメリカの次の大統領が誰になるかにより、状況は一気に流動的になる可能性もある。ただアメリカ世論は、共和党支持者でさえもオバマの緩和策を支持する人が半数を超えているので、共和党の大統領になった場合でも、少なくともオバマが開いた新機軸は後戻りせず残ると思われる。