・EU国境の封鎖。入国審査の厳格化。
・歴史教育の見直し。ナチス時代だけを強調せず、ドイツの美点も教える。
・税金と社会保険料負担の上限を設定。子どもの多い人ほど年金支給額を増やす。
・相続税と資産税の廃止。
・徴兵制の復活。
・脱原子力政策の見直し。原子炉稼働年数を延長する。
・再生可能エネルギーの助成制度を廃止する。
・公共放送局の数を減らし、受信料制度を見直す。
「過去との対決」を否定する政党
AfDの過激性は、幹部の発言に表れている。ペトリ党首(当時。17年9月に離党を表明)は、16年に「ドイツ国境の警備を大幅に強化して、無秩序な難民の入国を防ぐべきだ。その際には、警官が銃を使うこともやむを得ない」と述べた。
ドイツに、ジェローム・ボアテン(ボアテング)というプロサッカー選手がいる。彼はドイツ人の母親とガーナ人の父親の間に生まれた。ドイツ国籍だが、一見黒人のような容貌を持っている。AfDのガウラント副党首は、16年に「ボアテンは、ドイツ人によってサッカー選手としては高く評価されている。だが人々は、彼が隣の家に住むとしたら歓迎しないだろう」と言う人種差別的な発言を行った。
AfDのテューリンゲン支部長ビェルン・ヘッケは、今年1月に行った演説の中で、ドイツ連邦政府がベルリン中心部に建設した、ナチスに虐殺された600万人のユダヤ人のための追悼モニュメントを、「恥ずべきモニュメント(Mahnmal der Schande)」と呼び、「我々ドイツ人は、首都の真ん中にこんな物を建設する、世界でただ一つの民族だ」と述べ、政府を批判した。戦後ドイツは、ナチスの犯罪と批判的に対決し、被害者たちに謝罪し続けることを国是としてきた。ドイツが今日、周辺諸国から一定の信頼を受け、EUの事実上のリーダー国になることができたのは、そのためである。ヘッケの発言は、ドイツ政府や社会の主流派が国是と見なしている「過去との対決」の伝統を真っ向から否定するものだ。もしもドイツが歴史認識を変更したり、ユーロ圏から脱退してマルクを復活させたりした場合、貿易立国ドイツが受ける経済的な被害は甚大なものになる。AfDは経済的利益よりも、国粋主義的・孤立主義的な路線を優先させようとしているのだ。
AfDの政策プログラムは、フランスの右派ポピュリスト政党「国民戦線(FN)」の政策と酷似している。欧州諸国の右派政党の間に、協力関係があることが感じられる。
「体感治安」の悪化もAfDの追い風に
メルケル首相の寛容な難民政策は、AfDにとって強い追い風となった。15年以降、難民が絡んだ悪質な犯罪が増加したことも、AfDへの支持を高めた。たとえば15年の大晦日には、ケルン中央駅前で、新年の花火を見るために集まった群衆のうち、多数の女性が、酒に酔った多数の移民や難民によって身体を触られたり、携帯電話を盗まれたりする事件が数百件発生。16年12月には、「イスラム国」(IS)の過激思想に傾倒したチュニジア難民がベルリンのクリスマス市場に大型トラックを突入させて、12人を殺害し55人に重軽傷を負わせた。その他、亡命申請者による自爆テロや、刃物を使った無差別テロも発生し、ドイツ市民の間で不安が高まっていた。
実際には、16年の春以降、ドイツでの難民危機は小康状態となっていた。ハンガリー、クロアチアなどバルカン諸国の政府が国境にフェンスを作って難民が通過できないようにしたほか、トルコとEUの間で難民の引き取りに関する合意が成立した。このため、15年夏のようにバルカン半島を通って、ドイツに至るルートは事実上閉鎖されている。それにもかかわらず、市民の間にはメルケル首相の難民政策に対する不満が残っている。
AfDは選挙戦の中で難民政策を理由に大連立政権を厳しく批判して、市民たちの共感を得たのだ。しかしCDU・CSU、SPDはAfDの攻勢に対して、有効な反撃を行わなかった。17年9月にメルケル首相とSPDのシュルツ党首が行ったテレビ討論でも、難民政策について突っ込んだ議論は行われず、多くの視聴者が「2人とも難民問題への言及を避けている」という印象を抱いた。彼らは政権与党に抗議するために、AfDに票を投じた。これが伝統的政党の最大の敗因である。
民主主義勢力は、有権者を取り戻せるか?
実際、AfDに票を投じた市民からは、「AfDが良い政党だとは思えない。しかし政権与党を目覚めさせ、連邦議会で本当の討論を復活させるために、あえてAfDに投票した」という声を聞く。いずれにしても、ネオナチすれすれの路線を行くAfDの議会進出は、貿易立国ドイツにとってイメージダウンである。ドイツの大手企業のトップたちは、AfDの躍進について強い懸念を表明している。
多くのドイツ人は、この国がナチスによる暴力支配という過去を持っているにもかかわらず、排外主義を掲げる極右政党が連邦議会の第3党になったことに、呆然としている。同国に住むユダヤ人やイスラム教徒は、AfDの躍進について不安感を強めている。第4次メルケル政権は、伝統的な政党に背を向けて、過激政党の下へ走った有権者たちを取り戻すための、困難な作業を始めなくてはならない。それには、難民政策に関する議論を改めて行うとともに、グローバル化から取り残されたと感じている市民に手を差し伸べることも重要だ。同時にドイツは、「メルケル後」の新たな指導者を見つける準備も始めなくてはならない。今後4年間は、ドイツ人たちにとって茨の道となるだろう。