これによって約5兆円の増収が見込まれますが、このうち約2兆円は国の借金返済に使われ、2兆円は教育無償化などに、1兆円が社会保障費に使われるとされています。この増税に対して、自由民主党と公明党以外は反対または凍結を主張しており、また延期するのではないかとの声も聞こえてきます。
これまでは消費税率が上がるとき、消費に大きな影響が出ないように生活保護基準も引き上げるような対応もされてきましたが、今回は低所得者対策として食品などの軽減税率の導入も検討されています。しかし、消費税は低所得者ほど所得に占める生活必需品の割合が高くなるので税負担が重くなると言う、消費税の逆進性が指摘されています。
(4)年金改革法による「賃金・物価スライド」の新ルール(2021年4月~)
16年12月の年金改革法では、もう一つ、毎年行われる年金額の改定ルールが変更になりました。これまでは、物価が上がったのに賃金が下がった場合は年金額は据え置き、賃金と物価の両方が下がった場合は物価の下げ幅に合わせて年金額が下がりましたが、21年4月以降は、すべて賃金の下げ幅に合わせて引き下げられます。つまり物価が上がっても賃金が下がった場合は賃金の下げ幅に合わせて下がり、物価よりも賃金の下落が大きい場合も賃金の下げ幅に合わせて年金支給額は下がります。これによって現役世代の年金はある程度確保されますが、年金受給者にとっては支給額の減額になります。
このように、20年東京オリンピック景気の盛り上がりの影で実施されるのは、財政を維持しつつ、少子高齢化でかさむ社会保障費を抑制するための政策です。続く25年には、団塊の世代が75歳以上になり、35年には国民の3人に1人が65歳以上の高齢者になります。社会保障費は雪だるま式に増えていくとはいえ、どこまで削減を続けていくのでしょう。
講演で全国を回ってみてわかったことですが、すでに高齢化率30~40%という地域も少なくありません。こうしたところでは年金と生活保護支給が経済の資本になっています。その支給額を減らすということは、地方経済にとっても大きな打撃です。
17年にOECDが発表した調査結果では、日本の貧困率は12年の16.1%から15年には15.6%と少し下がりました。しかし、貧困ラインは122万円のまま変わらず、貧困率もOECD(経済協力開発機構)加盟国の平均11.4%よりも高いままです。貧困率は、その対策に予算をかけない限り、決して下がることはありません。具体的には、所得再分配政策、つまり税金を上げてその分を再分配しない限り、貧困率は下がらないのです。
しかし、政府は大きな反発を恐れて税金を上げられない。財政危機で配分する予算がないので、いまある予算のどこかを削るしかありません。どこを削るか、常に足の引っ張り合いです。今回の生活保護基準引き下げは貧困率を下げるどころか逆行しています。これがさらなる悪循環を生み、格差拡大を加速する契機になることが心配です。もはや「一億総貧困」が大げさなあおりではないところまできているのです。
とはいえ、以前に比べて、生活保護受給者に対するバッシングが減ってきているのは救いであり希望です。社会保障費がどんどん削られてきて、限界が近づいているからでしょう。政府は世論の方向性を見ています。今回も最初に厚生労働省が提示した13%引き下げが5%に下位修正されました。これをさらに4%や3%に下げていくことは不可能ではありません。
そのためには、声を上げていきましょう。たとえば、Twitterで生活保護費や社会保障費の削減に反対する意見をリツイートするだけでもいいのです。近いところから「まずいよね」と声を上げる人が増えていくことで世界は変わるのです。
「最低賃金」
雇う側が労働者に支払わなければならない賃金の最低額。働くすべての人に保証されている。金額は都道府県ごとに異なり、最低賃金審議委員会によって毎年改定される。
マクロ経済スライド
賃金や物価が上昇したときの年金支給額を抑制するしくみ。実際の伸び率からスライド調整率を引いた分で支給額を計算する。例えば、賃金(物価)の上昇率が1.5%でスライド調整率が0.9%の場合、年金額の改定率は0.6%になる。
スライド調整率
「公的年金全体の被保険者の減少率の実績」+「平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)」で計算される。2017年のスライド調整率は0.5%だったが、物価・賃金共に下落したため、適用されていない。