日本人の生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚したことのない人の割合)は、男性約26.7%、女性約17.5%と言われています(2020年の推計値)。
「結婚してこそ一人前」「いつになったら結婚するの?」「その年で独身なんてみっともなくて世間に顔向けできない」……親や社会から無造作に、あるいは熱心に向けられる、「結婚プレッシャー」を負担に思う単身者は多いのではないでしょうか。でも、結婚(法律婚)しようにも踏み切れない理由は人それぞれ。中には「異性とセックスしたくない」から結婚は無理、と諦めている人だっているのです。そういう男性と女性がお見合いし、おたがいのメリットのために結婚できる選択肢があるとしたら……? 2015年に設立された結婚相談所「カラーズ」では、性愛抜きの法律婚を「友情結婚」と定義して、マッチングサービスを提供しています。ジャーナリストの黒川祥子さんが取材しました。
●「友情結婚」とは?
「友情結婚と一般的な結婚の違いは、友情結婚には『性愛関係がない』、これだけです。これ以外の定義付けはありません。『カラーズ』で成婚された方々を見ても、結婚したい理由や夫婦の形などさまざまで、一般的な結婚と変わらないと思います」
日本初にして唯一、「友情結婚」に特化した結婚相談所「カラーズ」代表、中村光沙(ありさ)さん(35歳)はこう語る。
「友情結婚」とは、恋愛結婚に対して作られた言葉だと言われるが、いつ誰が言い始めたかはよくわからない。10年以上前から、性的マイノリティの人たちが掲示板やmixiで使っていたそうだが、ではなぜ、性的マイノリティの人たちの中から、「友情結婚」という言葉が生まれたのだろう。
「身近なLGBTQの方たち、中でも同性愛者の方に話を聞くと、パートナーと結婚したいと願っていても、そのパートナーと同性婚をしたい人や、そのための法改正を望む人は非常に少数でした。なぜなら、いまの日本では、国が仮に同性婚を認めても、現実は親や会社に受け入れられることは難しいと考えているからです。そういった状況にあって、そもそもカミングアウト自体を望んでいません。ならば、結婚したいなら異性とするしかない。しかし、結婚は通常、性行為が伴うものですが、彼・彼女たちは異性と性行為ができない。そこで考えだされたのが、性愛関係のない結婚でした。そうした結婚を“友情結婚”と呼んだわけです」
性行為が存在しない結婚ゆえに、「友情」と冠されたということか。
●恋愛・性愛なしのマッチングサービス
自身は異性愛者であるという中村さんがなぜ、友情結婚だけを扱う結婚相談所を立ち上げることになったのだろう。
15歳から25歳までアメリカで暮らした中村さんにとって、LGBTQの人たちは当たり前の存在として身近にいた。しかし、日本に帰国した途端、その存在が見えなくなった。中村さんは、そこに違和感を抱いた。
「なぜだろうと調べてみたら、LGBTQの人たちは日本にもアメリカと同じくらいの比率で存在するのに、日本の文化や風潮が壁となってカミングアウトができずにいることがわかりました。ならば、この分野で、私にも何かできないか。起業したいという思いもあり、ネット検索を続けていたら、友情結婚という言葉に行きあったんです」
そこで出会ったのが、カラーズ創設者の一人となる、ゲイの男性だった。彼はすでにレズビアンの女性と掲示板を通して出会い結婚していた、友情結婚の先駆者だった。
「彼は友情結婚をしたい人たち向けのお悩み相談のようなブログを書きながら 、何かその人たちの手伝いができないかと思っていました。でも、自分の性的指向をカミングアウトしたいわけではないので、表立った活動ができない。では、私が表に立ちますから、結婚相談所を立ち上げましょうとなり、2013年から準備を開始しました。彼と出会っていなければ、カラーズは形になっていなかったと思います」
こうして中村さんが代表となり、カラーズを設立したのが2015年3月。最初の1年は会員の募集にとどまり、会費もとらなかったので、売り上げゼロを覚悟してのスタートだったが、「こういうのを待っていました!」と、設立当初から反響があった。
「1年目の終わり頃、会員数が50人ほどになったあたりから本格的に会費をとってマッチングサービスを始め、すぐに最初の成婚例という実績ができ、そこから徐々に会員も成婚数も増えて……、という6年間でした」
中村さんは自らを「日本一、数多くのカミングアウトしていない性的マイノリティの方と話した人」と称す。
「カミングアウトしているLGBTQの方と話したことのある方はたくさんいますけど、カミングアウトしていない方と話した経験は、多分、私が最多だと思います」
その数、およそ2000人。うち、会員となり婚活を開始した人が626人(2015年3月~2020年12月)。成婚者は244人(同期間)、成婚率約39%。どんなに高くても成婚率30%を超えることのない婚活業界ではあり得ないほど高い実績を上げてきた。
男性約26.7%、女性約17.5%
出典:内閣府「平成30年版 少子化社会対策白書」第1-1-10図「50歳時の未婚割合の推移と将来推計」
LGBTQ
性的マイノリティのこと。レズビアン(Lesbian、女性の同性愛者)、ゲイ(Gay、男性の同性愛者)、バイセクシャル(Bisexual、両性愛者)、トランスジェンダー(Transgender、身体的な性別と性自認が一致しない人)、クエスチョニング(Questioning、自身のセクシャリティについて規定しない人、規定できない人、わからない人など)またはクィア(Queer、LGBT以外の性的マイノリティ)の頭文字をつなげた言葉。