自由な想像力を育てる
イラクの教育は教科書を暗記する詰め込み型なのですが、私たちは、「想像は自由なんだ」と伝えようとしています。◯(マル)を見せて「これなんだ?」と聞くと、ボール、月、と子どもたちはいろいろと答えます。先生が「◯(マル)」と教えそうになるところをぐっとこらえてもらって、「全員正解!」とする。そうすると先生たちも、私たちが何をしたいのか、だんだんと理解してくれます。
読み手を育成するためのワークショップもやっています。例えば、凧(たこ)揚げする人の役と、凧の役をやってもらって、その時の気持ちを想像してもらいます。そうすると、凧を揚げている子と離れて寂しい、高いところは嫌だ、地面に降りたい、といった凧の気持ちが出てくる。こういうことをやってからストーリーをつくってもらうと、面白いものができます。
他にも、日本で集めた寄付で移動図書館をつくり、難民キャンプなどでも子どもたちが自由に絵本を読めるようにする活動を行っています。また、ブックドネーションも好評です。これは難民キャンプや小児科病院などの子どもたちのために、アラビア語やクルド語に翻訳された日本の絵本を日本の人々に買ってもらい、それを私たちが届けるというものです。
オリジナルコンテンツも欲しいということで、私たちの仲間の一人が考えたお話に、イラクの若者が絵を描いてくれました。「モンちゃんとしっぽ」という作品で絵を描いてくれたファラハは、イラク戦争が開戦した時にはまだ小学生低学年でした。空襲に怯えてベッドの下に隠れながら、日本のアニメの絵を描いていたそうです。彼女の絵は本当に素晴らしく、今、新作の絵本を描いてもらっているところです。
イラクの人々は、共感する力や想像力がないわけではありません。現地の学校教育の中で、そうした感情の部分を働かせる機会がなかっただけです。だから、少しでも感情を刺激する機会があれば、すぐに理解してくれます。ワークショップをやると、子どもはもちろん、大人も、「しつけや答えにこだわる教育」から「想像力を育てる教育」へと、意識が変わっていきます。
今、やろうとしていることは、学校に図書室をつくることです。可動式の本棚にして、演劇ワークショップもできる多目的スペースにしたいと思っています。最終的な目標は、ドホークの教育省に予算をつけてもらい、多目的図書室をすべての学校につくることです。演劇のワークショップもいよいよ今年から本格的に始まります。
描いている未来は、宗派や民族といった自身のアイデンティティーを超えて、お互いに共感できる世代をつくることです。定められた「答え」だけを正解とする暗記教育と結びついた民族・宗派のためのイデオロギー教育ではなく、自身の感性で考える力を解放していけば、きっと異なる宗派や民族であっても共存できる。イラク支援を長くやってきましたが、ポジティブな未来をつくっていくことは楽しいですね。