日本は人種差別撤廃条約の締約国でありながら、包括的な差別を禁止する法律はない。ネット上のヘイトスピーチも、個人を名指ししたもの以外は削除のハードルが高いままだ。だが金さんは、EU圏内で2024年から施行されるデジタルサービス法(DSA法)によって、日本も変化していくのではないかと見ている。
「DSA法は利用者の保護や違法なコンテンツへの対応を義務化し、各国内に責任者や法定代理人を置くことを定める法律です。確かに表現の自由は大切ですから、ヘイトスピーチへの法規制は慎重であるべきだという点には同意します。しかしヘイトスピーチが規制されない現在の状況では、安心して暮らせない人たちがいます。誰もが安心して暮らせるためには、差別的な書き込みの削除を容易にするための法改正が欠かせません。DSA法はEU圏内のものですが、施行されたら日本も無視はできないと思います」
2023年2月に入り、司法判断を待たずに迅速に削除ができるように総務省が「裁判外紛争解決手続き(ADR)」の導入検討を始めたという報道があった。DSA法の施行を待たずして、少しずつ日本でも変化が起きているようだ。
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デマや流言によって多くの朝鮮人がジェノサイドの犠牲になった1923年から、今年で100年経った。コリア国際学園への加害者は、Twitterへの投稿の中でヘイトクライムどころか、ジェノサイドまで扇動していた。投稿された脅迫的な言葉は、今でも削除されずに残されたままだ。
100年前、無惨に奪われた魂に「安心して暮らせる世界になりました」と言えるように、悪意の芽を摘み、再び育たないための土台を整備する。次の10年はそうして生きていけるよう、ネットのヘイト規制への動きを注視していきたい。