外国人のみならず、「公的ケアの対象になる人」ばかりが「優遇」され、自分たちは見捨てられてきたと思う人たち(「真ん中」)に、マイノリティをあえて切り捨てる発言が受けたという構図だ。
そんな「真ん中」を表現するために使われたのが「日本人ファースト」という言葉だと伊藤さんは指摘する。
ということで、25年10月、伊藤さんに話を聞いた。
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「ひとつのターニングポイントは、財務省デモだと思うんです」
開口一番、伊藤さんはそう言った。24年12月に注目された「財務省解体デモ」だ。多くの人が財務省前に集まり、生活の苦しさなどを訴えたデモ。が、全体像は漠然としており、私は少々不気味なものを感じていた。
そんなデモ、注目されたのは昨年だが、23年9月から「財務省前デモ」という形で小規模ながら始まっていたという。ちなみに23年5月には、財務省を痛烈に批判しベストセラーとなった森永卓郎さんの『ザイム真理教 それは信者8000万人の巨大カルト』が発売されている。
「もともとは反緊縮ということを訴える左派的なグループが主導していたんですが、これが24年12月になるといろいろな人たちが入ってきて過激化して、財務省解体デモになったんです」
そんな解体デモの参加者たちの多くが「労働組合のある大企業勤めとは違って、中小企業とか自営とかフリーとか、労働者として団結できない人たち、納税者としてしか団結できない人たち」だったという。
「賃上げ交渉を通じて貰えるお金を増やすことはできないから、せめて取られるお金を減らすということで、財務省を批判する」
そんな財務省解体デモの様子が変わったのが、今年3月。
「俺たちが払っている税金がクルド人に吸い上げられてるんだ、みたいな主張で排外主義が入ってきました」
以降、目に見えて「右派」の参入が増え始め、伊藤さんが現地を視察した5月の時点でとくに目についたのは参政党支持者だったという。
が、その場にいる人に話を聞いた新聞記者によれば、見えてきたのは現代らしい生きづらさだったようだ。
「中年の男性は、30回くらい転職してきたそうです。どうも人生がうまくいかなくて、それでも生活はしているし、ちゃんと税金は払っている。なんでこんなに苦しいんだと思っていろいろ調べていったら、財務省が悪いってわかったって」
伊藤昌亮氏
そんな財務省解体デモが始まる前、この国では何が起きていたのか。
「22年以降、経済状況が大きく変わっていて、まずは急激な円安です。これが国民を二分したところがある。輸出企業は儲かるし、それに関連するところも儲かるので株価が上がる。そうすると投資家も儲かる。大企業の社員や投資家は円安の恩恵をものすごく受ける。円安によってインフレになっていって物価も上がりますが、大企業など一部では同時に賃上げも行いました。が、普通の人にとってはただ物価が上がっていくだけ。22、23年から円安、株高、物価高、一部の賃上げにより、そこから恩恵を受ける人と受けない人が完全に分かれたんです」
この3年、私に見えていたのは暴力的なほどの物価高騰とそれに苦しむ人々という光景だった。が、見えないところで富を増やしている人々がいたのである。
そうして中間層(ミドル層)は「ロウアーミドル」と「アッパーミドル」に分かれていく。
ロウアーミドルは前述した通りだが、アッパーミドルの中でも最近、「新しい富裕層」が増えつつあるという。大企業につとめるパワーカップルなどで、定年時にはそれぞれ2000万~3000万円の退職金を得るので資産が1億円を突破する。そのような人々が1億円を元手に投資をし、さらに富んでいく。
「円安は残酷で、投資をしたり株を持ってたり外貨を持ってたり、そういう才覚のある人はどんどん良くなる。でも、普通に働いて貯金する人たちは目減りする。物価だけでなく社会保険料も上がる中、積極財政で自分たちを助けてくれと言い出す人たちが現れた」
それなのに、財務省は相変わらず緊縮財政を続ける。それが財務省解体デモにつながった。
少し前までその層は、ひろゆき氏やホリエモンを支持し、自身の経済状況にかかわらず「投資家目線」を内面化し、世の中を斜めに見る層と重なっていたはずだ。決して「助けて」なんて言わなかったはずだ。
ちなみにこのような層は、金融自由化が進められた1990年代後半以降、個人投資家が急増することで現れた。政府も「貯蓄から投資」を勧める中、株や金融の知識をライフハックとして一発逆転しようという現役世代。企業も副業を勧める中、労組に入って団結して労働条件を良くしようという発想ではなく、投資で自分だけが生き延びようというスタンス。そのような人々が支持するのがひろゆき氏でありホリエモンだったわけだが。
「それがもう、投資なんかできなくなった。元手なんかないし。それで俺たちを助けてくれと、左派的な経済政策、大きな政府を望むようになった。ただひとつ条件がついて、『助けてもらうのは俺たちだけ、外国人を助けちゃダメだぞ』ということになっていく」
そうして財務省解体デモの現場に排外主義が入り込み、その後の参政党の躍進、そして移民政策反対デモへとつながっていく。その移民政策反対デモに、新規の人々が続々参入しているというのが現在地だ。
「もうひろゆきもホリエモンもネオリベも助けてくれないということに気づいたんですね」
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ちなみにそれ以前からこの国には、クルド人ヘイトの問題があった。近年の出入国管理及び難民認定法(入管法)改定の過程で彼らが「発見」されたことや、条例により川崎などでヘイトデモができなくなった層の「ターゲット」とされた形で始まったことは知られる通りだ。
「クルド人問題が始まったのが2023年4月です。23年からの2年間で在日クルド人に対する批判的なXのポストが2600万件あるんですが、炎上してる時期としてない時期とで書き込まれている内容が違うんです。炎上してる時は『クルド人が犯罪を犯している』とか治安の問題。停滞してる時は、『税金がクルド人に使われている』とか、お金の話ばかりなんです」
国民負担率
国民が、所得の中からどれだけ税金や社会保険料などの負担をしているかを示す数値。
