「外国人資本家問題でいうと、『中国人が東京のタワマンを爆買いしているので地価が上がり、日本人が住めなくなった』などの言説がありますが、本当に投機的行動が広がっているのか、実態はわからない。最近、晴海のタワマンをどれだけ外国人が買っているかという調査結果を見たんですが、約1000戸の家の登記簿を全部調べた結果、外国人は1割。そのうち、日本に住所がない人が3割強。そう考えると、投資目的は3%。外国人投資家によって値段が上がってるわけじゃない。日本人投資家が上げてるんですよ。このように、実態調査をやってみると、そういう誤解が解けるんです」
このような調査は非常に重要だ。今、国もすべてを把握していないような中で、真偽不明の噂だけが一人歩きし、「体感治安」を悪化させて不安ばかりが煽られている。
一方、移民政策反対デモでは、反メガソーラーの声も強い。中国製の太陽光パネルによるメガソーラーが日本の環境を破壊し、景観を悪化させ、災害リスクを上げているというような主張だ。ちなみに参政党とつながりがあるドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)も、太陽光発電や風力発電は故郷の景観を破壊すると強く批判している。
「水源地や景勝地が買い占められる、中国のメガソーラーが環境を破壊してるという言説もありますが、事実がはっきりしない中で外国人が悪者になっている。最近、福島県で山を崩してメガソーラーだらけになっていると問題になったのですが、誰がやっているのか朝日新聞が調査すると、外国企業ではなく、最終的には三菱UFJ銀行などが中心となって設立された会社だとわかりました。大企業がいろんな投資活動の中でそういうことをやってるわけですよね」
今、「日本が買い叩かれる」「乗っ取られる」「水源地が買い占められる」と多くの人が危機感を抱いているわけだが、まずは正しい実態を知るところからしか話は始まらない。
「その上で、日本の国土を蹂躙(じゅうりん)したり、地代をあげるような投機的な行動は規制すべきですよね」
10月13日、外国人による不動産取引について、政府がカナダやドイツ、韓国、台湾の法規制を実態調査するということが報じられた。遅きに失するが、法改正も視野に入れ、今年度中に調査結果をまとめる予定だという。
もうひとつ、聞きたいことがある。
少し前までヘイトデモに参加したり排外的な言説を振り撒いたりする人は、ある種「特殊な人」だった。
が、今、参政党を支持したり、移民政策反対デモに参加している多数は本当に「普通」としか言いようのない人だ。「善良な隣人」という言葉が浮かぶような子連れの夫婦や若い女性、お年寄り。そんな人たちが日の丸の小旗を振っている姿に、どう対峙すべきかわからなくて立ちすくんでしまう。
一方、「日本人ファースト」という言葉に対して「差別だ」「差別じゃない」という永遠の平行線も続いている。
「まず、あれが差別だと言うこと自体が左翼的な発想だっていう議論があるんです。先ほど投機の規制の話をしましたが、観光客についても、デマもたくさんありますが、自分たちは差別をしているんじゃなくて、外国人観光客による無謀な行動を規制してもらいたいだけなんだという人もいます。これは、ある意味正しいですよね」
確かに、さまざまなルールが必要な場面は多くある。
「今、パニック状態ですよね。投機は本当に経済安全保障の問題に結びついているし、ウクライナ戦争で、エネルギー安全保障や食料安全保障ということも考えるようになった。そこに米不足や米価格の高騰という問題もありました。自分たちの安全が脅かされていて、経済的に苦しいのはなぜなのか、答えを探していた人たちがいっぱいいるんですね」
そこにぴたりとハマった、「外国人のせい」という言説。
が、それは事実ではない。事実ではなくとも、わかりやすい答えが大きな支持を得る。今起きているのはそういうことだ。
そんな現実に対し、私も含めたリベラルはどう対抗できるのか――。
「もう対話するしかないと思います。もちろん、排外主義に凝り固まった人とは対話なんて甘いこと言ってられませんが、今、普通に家庭の中でお父さんが排外主義者になっちゃったとか、お母さんが陰謀論者になっちゃったとかいうことが起きてるんです。家族の中にいたら、悪魔化して対決することはできない。実は排外主義だとひとくくりにしているものが、一人一人のいづらさとか納得できない感とか寂しさとか、そういうものが根っこにあるということもあります」
そこまで言って、伊藤さんは唐突に、私に馴染み深い人々の名前を出した。
「だめ連みたいな感じだったらどうなのかな?」
だめ連とは、「自薦他薦問わず、だめな人が集まり、だめをこじらせないように、トーク、交流、諸活動するグループ」として90年代から30年以上を二度寝や遊び、最低限の賃労働に費やしている人々。だめ連とは私もよく路上飲みをする仲なのだが、彼らのコミュニケーションは独特だ。
自らの「だめ」を隠さず開示することが良しとされているので、トークは「いやぁ、最近何もかもうまくいかなくて」「お金もなくて」「だけどびっくりするほど働きたくなくて」などから始まる。
そんな場だったら、初対面同士でも「このまま外国人のせいにしてても先なくない?」的なテーマで語り合う――とか、できるかもしれない。
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さて、10月21日には高市早苗新総理が誕生したわけだが、高市総理を伊藤さんは「まさにあいまいな弱者論者」と言う。
「高市さんは中低所得者に対して、中小企業支援や介護報酬を上げるなど左派的な経済政策を言う一方で、生活保護受給者にめちゃくちゃ厳しいんですよ」
12年、彼女が生活保護問題に絡めて「さもしい顔してもらえるものはもらおうとか弱者のフリをして少しでも得をしよう、そんな国民ばかりになったら日本国は滅びてしまいます」と発言したことは有名な話である。
「自民党総裁選のときのインタビューでは、生活保護を受けている人よりちょっと上の人たちを助けると言っています。控除の恩恵のない人を給付で助けるとか。まさにあいまいな弱者を助ける路線」
そんな高市政権の財務大臣は、「生活保護を恥と思わないことが問題」などの発言で知られる片山さつき氏。
が、高市氏、片山氏はともに積極財政派でもある。財務省解体デモに集った人たちの「悲願」は、果たして叶えられるのだろうか?
一方、第二次安倍政権によって進められた生活保護基準引き下げが6月27日、最高裁で「違法」と判断されるということがあった。
しかし、厚労省からはいまだ謝罪の言葉はない。11月7日、高市総理は衆院予算委員会で初めて謝罪したものの、補償については到底納得できない形で話が進んでいる。違法行為をした側が被害を矮小化し、補償額をディスカウントするような内容だ。
ちなみに片山氏は引き下げを推進した「生活保護プロジェクトチーム」のメンバーの一人だが(座長は世耕弘成氏、メンバーには小泉進次郎氏もいた)、自らが推し進めた政策が「違法」と判断されたにもかかわらず、やはり謝罪はしていない。
10年以上にわたる裁判で、最大1027人いた原告からは、最高裁判決までに232人の死者が出ている。
国民負担率
国民が、所得の中からどれだけ税金や社会保険料などの負担をしているかを示す数値。
