しかし、一般的な傾向として、人生がつらかったり、経済的に厳しかったり報われないと思っていたりする人がネトウヨになっているわけではないという。
「ネトウヨになるのはむしろ経済的に余裕のある人です。結婚していて子どももいて、会社でそこそこ役職もあるみたいな。別に外国人の排斥なんてしなくても人生楽しいでしょ、みたいな人でもスッと入ってくるんです」
いったい何がきっかけなのだろう?
「多くの場合、マスメディア不信だと思います。最近はSNSがきっかけになりやすいですが、僕の時はニコニコ動画がカウンターメディアで、既存のメディアは信じられないという思いがありました。特にニコニコ動画は視聴者が動画上にコメントをつける機能があって、それが自分と同じ意見のものばかりなんです。きっかけさえあれば、いわゆる“普通の日本人”なら誰でもハマりうると思うんですよ。要は、暇なんですよ」
ここでまさかの「暇」原因説が浮上した。
「それは大いにあると思います。僕がハマったのは大学3回生の時ですけど、今の大学生と違ってインターンなどもなかったので本当に暇だったんですよ」
先ほどのリア充ぶりを聞くと決して暇そうではないが。
「時間があるんで、ネトウヨの活動もできたんですよ」
それでは昨年の参政党躍進の背景にも「暇」問題はあるのだろうか。
「まだ明らかでないところもありますけど、参政党支持者って自営業の人が結構いて主婦も多い。『暇』という言い方には語弊があるので正確に言い直すと、これは政治的リソース――行動するための時間や経済力、コミュ力やその基盤――がある状態です。普通のサラリーマンはそんなに時間を割くことはできない」
ちなみに秦さんは昨年の参政党躍進を「予測していなかった」という。
「朝日新聞社の世論調査を見ると、昨年6月中旬の時点で参政党の支持率は3%だったんです。それが参院選の2週間くらいの間で、急激に10%まで上がった」
その背景に何があったと見るのだろう。
「“普通の日本人”が、『最近、日本がおかしくなってるよね』って考えた時に、自民党が原因でもう頼れない、だけどリベラルは論外。その時に参政党がひとつの選択肢になったんだと思います。25年の参院選中、参政党を支持している若い人に話を聞いたら、24年の衆議院議員総選挙では“手取りを増やす”と言い始めた国民民主党を支持していたということでした。国民民主は消去法だったけど、参政党は積極的に推せる、この政党はいいと自信を持って言えると」
なぜ、そこにリベラルという選択肢はないのだろう。
「リベラルという時、ふたつの軸があると思います。ひとつは政治的な軸で、“護憲・反戦のカタブツ左翼”みたいなイメージ。もうひとつは価値観軸で、日本社会の価値観はこの20年くらいでかなりリベラル化してるんですよね。選択的夫婦別姓には賛成で多様性を認め、同性婚も認めるという人が増えている。なのに、そこと政治的な軸がマッチしていない。日本だけじゃなく、アメリカやヨーロッパもそうだと思います。昔はこのようなリベラルな価値観が護憲・反戦と繋がっているということが無条件に理解されていたんですが、今はそれが繋がっているのがオールドな人たち、というイメージです」
確かに。常々「ミサイルよりメシ」的な言葉は、もちろんすごく理解できるし賛同するけれど、一般受けしないどころか「若い世代ほど意味不明かも」とうっすら感じていた。ここの文脈がすんなり理解できる人が「オールド」なのだろう。
一方、参政党は夫婦別姓には明確に反対とかなり保守的だが、若年層どころか女性の支持も一定程度得ているという現実がある。ここはどう見ればいのか。
「夫婦別姓反対とか憲法草案とか、参政党を支持していてもよく知らないという人が多いと思います。それよりも、DIY政党で支持者がいろんなことを決められるとか、自分たちをちゃんと見てくれる政党というイメージみたいなものが受けているのではないでしょうか」
では、参政党の陰謀論については?
「データを見ると、支持者のうち、参政党の陰謀論的なものを本当に盲信している人は3~4割くらいです。6~7割くらいはそれよりも神谷さんのリーダーシップや、自民党のオルタナティブ的な存在であること、素朴なナショナリズムなんかで支持してるように見えます」
そう、いくら「排外主義」「差別」「陰謀論」と指摘しても、支持している層は自分の見たいところだけ見て推しているので議論がそもそも噛み合わない――というのが25年夏以降、起きていることなのだろう。
■「陰謀論者にさせない」ことが重要
秦さんはネトウヨだった時のことを、「マスコミを『マスゴミ』と信じておけば、だいたいの物事はうまく解釈できるので楽だった気もします」と書いている(朝日新聞前出記事に寄せたコメントより)。
しかし、自らの学びによってそれは徹底的に打ち砕かれた。
現在、大学で教える秦さんだが、学生などが過去の自分のように“反日ミンス”と言い出したり、陰謀論的な世界に染まったりしたらなんと声をかけるだろう。
「徹底的に付き合います。とにかく否定せず、話を聞く。陰謀論、非科学を信じている人たちをどうやったら説得できるか実践してみようという『エビデンスを嫌う人たち』(リー・マッキンタイア 著、西尾義人訳、国書刊行会、2024年)という本があるんですが、ここには非常に重要なことが書かれています。著者はそのような人たちと人間関係を作って対話を続けるんですが、結果を言うと、誰一人として改善しなかった。でも、考えが違っても、関係を切ろうとはならない。これが重要で、中途半端な関係で否定するから良くないんだと思います。だからこそ、『あなたのことは大好きなんだよ、だから話を聞きたいんだ』ということを、何カ月、何年と続けていくことだと思います」
なかなかに忍耐力が問われるではないか。ちなみにその人が信じているものが人を傷つけないものだったらいいが、陰謀論の中には悪質なヘイトに繋がるものもある。そういう人にはどう対応するのだろう。
「これまで勤務校に限らず様々な大学で教えてきた学生の中には『埼玉はクルド人に支配されている』『あいつらマジで殺しに行かなきゃダメ』と言う人もいた。そういう場合、僕は社会的リスクだけを語ります。『君のことを潰したい人がいて、今の発言を録音してSNSにアップしたら、就職とかヤバいことになるで。僕も普段、そういうリスクを考えながら授業してんねんけどさ』とか。相手は『そんなことあるわけないじゃないですか』って反応ですが、そういうことを言うたびに繰り返しています」
昨年11月以降は、中国からの旅行客の減少も話題になることが多い。
「僕の大学は京都も近いので、『紅葉見やすいから、中国人なんか永遠に来なかったらいいんすよ』って意見もあったりします。学生の、素朴な意見ですよね。ですが、『そうか、そうやな、中国人ずっと来んかったら紅葉は見れるけど、たぶん京都の宿も潰れるだろうな』『中国と取引なくなったら、君らの就職先とかも危なくなる可能性あるで』と言いますね」
対話し続けるのは、自身の苦い経験もあるようだ。
「過去の自分が、やっぱりずっと話を聞いてもらったことが大きかったので。でも、急進左派の人によくあるみたいに『お前は今、差別的発言をした!』って言われると、その瞬間、対話って止まるじゃないですか。僕もそういう経験ありますが、言われた方は純粋にもうこの人と喋っても時間の無駄だと思ってしまう」