確かに、頭ごなしの否定はコミュニケーションを終わらせる。私自身も右翼団体にいた頃、「お前は間違っている!」と頭ごなしに言われてより頑なになった経験がある。ちなみに発言の主は元赤軍派議長の塩見孝也氏(前述の、私を北朝鮮に誘った人)。学生時代に「軍」を作り、世界同時革命を目指した挙句、ハイジャックの共謀や爆発物取締法違反などで逮捕されて獄中20年、しかも日本で初めて個人で破壊活動防止法を適用されたという人物だ。そんな塩見さんの「間違っている」という指摘には、心の底から「お前の方こそ間違ってる!」と思い、この人だけには言われたくないと反発したものである。
一方、秦さんは「陰謀論者にさせない」ことこそが重要だと説く。
「今の世の中、何が荒唐無稽で何が荒唐無稽でないのか、その分水嶺がはっきりしないんですよ」
確かに。迷惑系インフルエンサーが市議会議員になれてしまう時代である。
「だからこそ、普段の授業では右寄り左寄りなことはもちろん言いませんが、それとは別軸で、選挙を金儲けやおもちゃのように扱うような人や政党は民主主義の敵だと学生には示すようにしています。何が良くて何が悪いのか、分水嶺を誰か専門家がある程度示さないとわからない」
ネットもSNSもない時代を知る世代からは荒唐無稽に思えることでも、若い世代にとってはそう見えない可能性もある。何しろ、今は嘘でもなんでも大声で言い、それが拡散されてしまえば真実にだってなってしまう時代なのだ。だからこそ、大人たちが「これはNG」と線引きをすることが大事なのだろう。
その一方で、陰謀論は複雑怪奇な世界を整理してくれる。これが原因だ、あいつが敵だと名指ししてくれて、世界をシンプルにしてくれる。それだけでなく、「あなたの苦しみの原因はここにある」という教えは、当人を免責し、時に深い癒しを与えてくれる。その上で「自分だけが真実を知っている」という優越感さえもくれるのだ。没落する一方のこの国で、陰謀論が流行る条件は揃っているのだ。
そうして今、高市政権の支持率は7割近く。18歳~20代では9割近くと異様な数字を叩き出している調査もあった。支持する理由は人それぞれとはいえ、はからずも、秦さんが院生時代、最初の研究テーマに据えた「日本人が全員ネトウヨになったら」という世界が到来しているかのようだ。
「もし、『政治を学ぶ』場所が大学院でなかったら、今ごろ私も、熱心な参政党の党員になっていたと思います」
これは秦さんが朝日新聞の参政党の記事(前出)につけたコメントの最後の一文だ。
秦さんは大学院でしごかれ、脱ネトウヨした。私は多様な思想に触れ、世界は広いと知ることで右翼を抜けた。
二人に共通するのは、頭ごなしの否定がまったく効かなかったことだ。
私たちの経験が、今、陰謀論的なものにハマっている人、その周りにいる人への一助となれば、これほど嬉しいことはない。
参考文献
秦正樹『陰謀論 民主主義を揺るがすメカニズム』(中公新書、2022年)
神谷宗幣編著『参政党Q &Aブック 基礎編』(青林堂、2022年)
「参政党の躍進の源流は 『メディアが伝えない情報』売りにネットで絆」朝日新聞2025年8月4日付
黒猫ドラネコ他著『陰謀論と排外主義』(扶桑社新書、2025年)
