人口、面積の規模では大国とは言えないこれらの国々が、経済成長で欧米の大国やBRICsと肩を並べる背景を探ってみよう。
世界経済、意外な高成長国
各国の間で、経済成長の格差が拡大している。特に、BRICsと呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国の経済成長が注目を集めているが、一方では、ルクセンブルク、ノルウェー、スイスなどのヨーロッパの小規模国の成長も目覚ましい。
特に、製造業における労働生産性を見ると、3位のアメリカ、6位の日本を除けば、1位のアイルランド(17万872ドル)、2位のノルウェー(9万7733ドル)、4位のフィンランド(9万3888ドル)、5位のルクセンブルク(8万9695ドル)と、これまで経済発展が比較的遅れていたヨーロッパの小規模国が、かつての工業大国のイギリス(10位)、ドイツ(11位)、イタリア(14位)をしのぐ生産性をあげている(2005年、OECD調べ)()。
これらの小規模国では、1990年代以降に各方面で経済のIT化が進んだが、同時に、「モジュール型」と呼ばれる新しい生産方式に依存する企業の比率が高いという、共通の特徴を持っている。
「統合型」「モジュール型」生産様式とは?
1970~80年代には、日本企業の「統合型生産様式」が高付加価値を生むことで知られていた。しかし、それ以降に急速に発展した、情報通信技術と経済活動の国際化の進展を最大限に生かす「モジュール型生産様式」は、各国の産業構造を大きく変化させた。日本式の「統合型生産様式」では、下請け企業まで含めた特定のつながりを持つ企業群が、製品の開発から試作品の製作、部品の生産、そのための材料や工具の生産に至るまで、生産工程のすべてを、細部まで、共同で徹底的にすり合わせていく。
そのため、生産コストは高いが極端に品質の高い製品を生み出し、それが日本の自動車産業や家電産業の高付加価値を生み出してきたと言われている。
これに対して「モジュール型生産様式」では、ある企業が製品の開発と部品の規格、組み立て方法から配給の仕方まで、すべての生産工程を総合的にデザインし、生産、組み立て、配給などの比較的簡単な生産工程は、すべて不特定多数の企業に任せる。
このような生産様式では、部品生産や組み立てでは高い技術や経験は必要なく、ひたすら企画書に従って部品を生産し、定められた方法で組み立てればよい。したがって、当初のデザイン工程は高い付加価値を生むが、単純な部品生産、組み立て、配給などの工程では、さほど高い付加価値を生むことはできない。
モジュール(module)とは、もともと、建築材料や家具などの規格化された組み立てユニットを指す言葉である。「モジュール型生産様式」は、80~90年代にパーソナルコンピューターなどの家電、電子製品で開発された。しかしその後は、生産工程を標準化しやすいさまざまな産業に急速に広がると同時に、特に90年代後半より、生産工程ごとの国際分業が急速に進んでいった。
付加価値の高い製品開発、部品規格、組み立てのデザインは、アメリカ、日本、ヨーロッパの多国籍企業が担当し、付加価値の低い生産と組み立ては技術の蓄積に欠ける発展途上国に集中していったのである。
近年では、日米欧でこのような「モジュール型生産様式」が、サービス業、金融業にも適用され、高い生産性をあげるようになった。
小規模国ゆえの強みが生んだ経済成長
このようにして、1990年代以降、生産性で見て、日米欧とそれ以外の国の格差が広がっていった。しかし同時にそれは、部品生産と組み立てに特化することによって、中国を始めとするアジア諸国や東欧が、経済発展を遂げる要因にもなった。実際、94~2005年の実質労働生産性上昇率(年平均、世界銀行調べ)を見れば、1位アルメニア(10.90%)、2位アゼルバイジャン(8.91%)、3位アルバニア(7.97%)、4位エストニア(7.74%)、5位中国(7.58%)が並び、次いで11位アイルランド(4.24%)、15位ルクセンブルク(3.47%)などが続いている。
日本、アメリカ、ドイツ、フランスなどの大規模国でも、高付加価値生産工程を担う企業は多いが、一国全体の生産性はヨーロッパの小国ほどには高まっていない。
それは、経済規模の大きな国では、一部の産業で生産性が高まっても、それ以外の従来型産業、つまり国内製造業、建設業、その他政府補助などに依存するサービス業などの比率が高いためである。
さらに、アイスランド、フィンランドのように経済発展が比較的遅れていた小規模国では、伝統的産業の規模が小さかったため、「モジュール型生産様式」による高付加価値産業が、経済全体で占める比率が急速に高まったからである。
労働生産性
労働者1人当たりの付加価値額。1人の労働者が1年間に国内でどれだけの新たな価値を生みだしたかを測るもので、GDP(国内総生産)÷就業者で算出する。