【「性知識イミダス:男性の生殖器を知ろう」もあわせてご覧ください】
「射精のしくみなんて知らなくても、男なら自然とできることだろう」――そんなふうに思っている人はいないだろうか。実際のところ、射精は脳が発する複数の指令が複雑に連携する緻密なメカニズムの下で行われており、何かのきっかけでこのメカニズムがうまくはたらかなくなるということは誰にでも起こり得る。また、勃起や射精はセックスに直結するだけではなく、男性の心身の健康と密接にかかわる生理現象でもある。勃起や射精はなぜ起こるのか、そのメカニズムを知り、デリケートな男性のココロとからだを理解しよう。(監修・小堀善友医師〈泌尿器科医・獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科〉)
〈男なら誰でも射精できるわけではない〉
「特に意識しなくても起こりがちな勃起と違い、射精は『正しい方法』で行う必要がありますが、そうしたことを教わる機会はほとんどないというのが実情です。射精は単にペニスを刺激すればいいというものではありませんし、大人の男なら誰でもできるというわけでもありません」と、獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科の小堀善友先生は釘をさす。
「一般的には勃起して射精するという流れになりますが、本来、勃起と射精はそれぞれ独立したプロセスで、正反対の状態をもたらすふたつの自律神経が複雑にはたらいています。勃起するにはリラックスした状態を生む副交感神経が優位であることが必要で、緊張していると勃起しにくくなります。一方、射精は緊張や興奮、覚醒をもたらす交感神経が優位でないと起こりにくい。明確にどこかの時点で自律神経のスイッチが切り替わるというのではなく、必要に応じてバランスを取っているというイメージです。
このように、勃起や射精が起こるためには、脳が発する複数の指令を受けて、様々な神経や筋肉、血管が連携しなければなりません。ですから、脳がストレスやプレッシャーを感じると、『勃たない』『射精できない』ということになってしまったりします。特に近年、『挿入はできても射精できない』腟内射精障害は深刻な問題になっています。主な原因は不適切なマスターベーションの習慣や心因的な背景ものですが、この他にも病気や薬などにより、射精するためのメカニズムがうまくはたらかないということが起こり得ます。
射精しないでいてもからだに悪いというわけではありませんが、『精子の健康』にはよくありません。古い精子は運動率が悪くなったり、精子の奇形が増えたりするので、特に生殖の観点からは週に一度は射精をして古い精子を定期的に『在庫処分』し、精子を常に新鮮なものにしておくことをお勧めします。ちなみに、射精回数が多い人の方が前立腺がんのリスクが低いという研究結果もありますし、またセックスの回数が多いと心筋梗塞など心血管リスクが低下したり、男性ホルモンの値が高まったり、精神的にも良い効果があるという論文は数多く発表されています」(小堀先生)
〈精子が形成されるまで〉
男子が思春期(第二次性徴期)に入ると、精巣で男性ホルモンのひとつであるテストステロンの分泌量が急増して、睾丸やペニス(陰茎)が発達し、ひげや陰毛、脇毛が生えたり、声変わりが起こったりするなど、いわゆる『男性らしさ』が備わっていく。テストステロンには骨や筋肉を増強させる、性欲を増すなど多くの作用がある他、精子形成を促す作用がある。男性のからだが精子をつくれるようになるのは9~15歳頃で、精子は死ぬまで毎日生産される。
精子をつくれるようになると、脳下垂体からLH(黄体化ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)という「性腺刺激ホルモン」が分泌される。FSHは精巣の精細管にはたらきかけ、精子の素である「精祖細胞」の分裂を促す。一方、LHは精巣の中にある「ライディッヒ細胞」(精細管と精細管の隙間[間質]に存在する細胞)にはたらきかけ、テストステロンの産生を促す。精祖細胞は減数分裂を繰り返し、約74日間かけて精子へと成熟していく。