「新たな食料危機」の到来
世界の食料環境の基調が、過剰から長期的・構造的な不足に変化し、「穀物・食料品価格の高騰」「食料生産資材価格の高騰」によって、途上国では食料暴動が発生するなど、深刻な状況が続いている。いまや食料をめぐる世界の状況は、「バイオ燃料シフト危機」ともよべる中長期的な新しい食料危機、しかも食料・環境・エネルギー・金融の四つが連鎖する深刻なグローバル危機の段階に入った。
こうした中、日本は必要とする食料の60%を輸入し、自給率はわずか40%(カロリーベース)でありながら、食卓に並ぶ食べ物の約28%が廃棄されている。
3000万人分の食べ物を廃棄する日本
2006年に日本で食事として提供された供給カロリー(2551kcal、1人1日当たり)と、食事によって得た摂取カロリー(1891kcal、同)の差は660kcalとなり、供給カロリーの25.9%が廃棄されていることになる。これを日本全体(1億2000万人)で見ると、1日で総量792億kcalが廃棄されていることになる(この二つのカロリー統計は調査方法や算出方法が異なるため、単純な比較はできないのだが)。この792億kcalというカロリー量は、仮に日本人と同様に1人1日2500kcalを供給した場合(供給カロリーベース)には3168万人を、無駄なく1800kcalを摂取した場合(摂取カロリーベース)には4400万人を養うことができるカロリーに相当する。
また、廃棄される660kcalを茶わん1杯分のご飯(222kcal)に換算し、これを1kg500円のコメ(茶わん1杯34円)で金額にすると、1人1日当たり101円の廃棄となる。日本全体では毎日121億2000万円、毎年4兆4000億円が捨てられていることになるのである。
世界にはいま、カロリーの摂取水準が健康を維持するための必要量に満たない栄養不足人口が、8億5000万人存在する。1996年11月に開かれた世界食糧サミットでは、この栄養不足人口を「2015年までに半減する」(ローマ宣言)としていたが、2002年6月の「5年後会合」では「半減するとの目標の達成は困難」との見解が示され、08年6月の国連食糧サミットでも、「目標の達成に向けた進捗を後退させかねない」(G8首脳声明)状況が確認されている。
日本は、食料を自ら生産するのを放棄して世界から買いあさり、栄養不足人口や飢餓の増加に貢献しているといってもいい。
確かに日本は食料援助や農業技術の援助などにより、貧困と飢餓の克服に貢献している。しかし、その貢献以上に貧困と飢餓の人々に回るべき食料を奪いながら、大量の食料を廃棄しているのである。
「海外依存率60%」の世界的意味
危機的な世界の食料環境の中にあって、「食料自給率40%=海外依存率60%」という水準の意味もしっかりと考えなければならない。第一に、長期的・構造的な食料不足のもとで「安価で安全な食料を長期的に安定的に供給する体制」を日本は確保できるのかどうか。
日本農業の担い手は激減し、その担い手の6割は65歳以上の高齢者である。また、全国の水田240万haのうち115万haには生産調整(うち85万haが転作、果樹・改廃等が30万ha)が行われ、このほかに埼玉県の面積に匹敵する38万6000haが耕作放棄地となっている。こうした状況にもかかわらず、食料の海外依存率60%を農地面積に換算すると、1200万haを超える借地をしていることになる。農地を始めとした国内の農業資源の有効利用が必要である。
第二に、食料の海外依存は、長距離輸送を伴うことから二酸化炭素(CO2)の大量排出につながる。
食料の輸送に伴う環境負荷は、「輸入相手国別の食料輸入量×輸送距離」で算出するフードマイレージ(t・km、トン・キロメートル)で示されるが、2001年の試算では、日本のフードマイレージは約9000億t・kmである。これは日本の1年間の総貨物総量の約1.6倍に相当し、アメリカや韓国のフードマイレージの約3倍、イギリスやドイツの約5倍に達する。1人当たりでは約7100t・kmで韓国の約1.1倍だが、アメリカの約7倍となる。国産・地元産の農産物を食べる「地産地消」が日常の生活として定着することを通して、環境や日本農業に貢献することが求められる。
第三に、農作物の栽培や家畜の飼育など、食料の生産には大量の水が必要となる。コメ1kgを作るには3.6tの水が必要とされ、小麦1kgでは2.0t、大豆1kgでは2.5t、牛肉1kgでは20.6tが必要だ。食料の海外依存は水の輸入でもあり、輸出国における水不足の問題を引き起こしかねない。
東京大学生産技術研究所の推計(2000年基準)によれば、日本への食料輸出による輸出国の水使用量(「直接水」とよばれる)は、1年間で約427億tに達し、日本の食料生産に使う年間農業用水量約550億tの8割に相当する。同じ量の食料を日本で生産した場合に必要となる水(「間接水」とよばれる)は1年間で約640億tであり、輸入国別の内訳は、アメリカ389億t、オーストラリア89億t、カナダ49億t、中国22億tと推定されている。水問題から見ても、地産地消は有効である。
このように見てくると、日本の食料自給率40%、食品廃棄率28%という状況は、地球的規模の犯罪的行為に等しい。私たちは食生活や日本農業を足元から見直さなければならない。