JR東海が進めるリニア中央新幹線は、国から3兆円の融資を得る超巨大事業になった。工事の入札ではスーパーゼネコン4社の談合が疑われ、大林組の社長が辞任、東京地検は鹿島建設と大成建設の幹部を2018年3月逮捕した。工事に伴う膨大な残土、地下水脈を断ち切る水枯れ、住民の立ち退きなど、リニア建設が環境や社会生活に及ぼす影響はちゃんと検証されているのか? そもそもリニアが必要なのか? リニア新幹線を長年取材してきたジャーナリスト・樫田秀樹氏がその問題点を指摘する。
トンネルを掘った東京ドーム50杯分の残土をどこへ持って行くのか?
総工費9兆円。史上最大の鉄道事業となるJR東海の「リニア中央新幹線」は、時速500kmで、2027年に品川(東京都)から名古屋(愛知県)までを40分で、2037年には大阪までを67分で結ぶという計画だ(直行便の場合)。いずれも東海道新幹線の半分以下の移動時間だ。気になる料金も、東海道新幹線「のぞみ」の料金と比べると名古屋までなら700円、大阪までなら1000円だけ高くなるとされている。
新幹線とは縁がなく都心までの移動に数時間を要する山梨県や長野県では、「観光客が増える」「若い人も故郷にいながら都市通勤できる」と計画に期待する人は少なくない。計画沿線周辺の経済界もリニア開通による経済効果を兆単位だと熱い期待を寄せている。
だが、捕らぬ狸の皮算用ではないが、リニアを巡る諸状況を冷静に分析すれば、JR東海が目指すリニアの2027年開通は難しいと私は考える。同時に、JR東海の計画推進のやり方は環境破壊や地域破壊を招きかねないことも訴えたい。
その最大理由の一つは「残土」だ。
リニアでは、品川―名古屋間286kmのうちトンネル区間が86%も占めるが、その掘削工事では約5680万立方メートルという東京ドーム約50杯分もの膨大な残土が排出される。ところが、その処分先がまだ2割台しか決まっていない。つまり、処分先が決まらないことにはトンネルも掘れない。
事実、リニア計画(品川―名古屋間)は2014年に事業認可されたのに、JR東海は、準備工事(測量、資材ヤード建設、非常口建設など)は進めていても、未だに本丸であるトンネル建設にはほとんど着手できないでいる。
残土処分地が決まらない理由の一つに各地での反対運動がある。特に長野県。JR東海が処分先の候補地と睨んだ地域では、「沢の上流に置かれた残土が土砂崩れを起こしたら大変なことになる」との反対の声が上がっている。
たとえば、大鹿村を含む天竜川流域では1961年(昭和36年)に犠牲者136人を出す集中豪雨災害「三六(さぶろく)災害」が起きたが、その恐怖を今も忘れない松川町生田区の住民は反対組織を結成し、反対声明を出し、その姿勢に町も同調し、JR東海に「住民理解が得られなければ、残土置き場設置に(町として)反対の結論もあり得る」との要望書を提出した。豊丘村小園(おぞの)地区でもやはり土石流を恐れる住民が署名活動を展開し、多数の署名を集めた結果、JR東海は残土処分計画を撤回した。
これが税金を使う公共工事ならば、あらかじめ残土の処分先を決めないと事業は認可されないが、リニア計画はJR東海の民間事業であるためにそれは求められない。とはいえ、JR東海の見込みは甘かった。JR東海は「処分先は都県を窓口に調整する」との姿勢に終始し、ついに一カ所の処分先も決めないままで事業認可を受けたのだ。
だがその都県が膨大な残土を処分できる候補地をなかなか見つけられないという現状が、リニア工事の進捗を遅らせている。JR東海の計画では1年以上も前に掘削を始めているはずの南アルプストンネル工事にしても、未だに本格掘削には至っていないのだ。
トンネル工事で地下水脈が断ち切られ水枯れが起こる
「水枯れ」も無視できない問題だ。
2027年開通予定のリニアだが、じつは、1997年からリニア走行実験を運用してきた山梨県にある山梨リニア実験線(42.8km)は、そのままリニア営業本線を兼ねるため、リニアは実質的には7分の1は完成している。その実験線周辺で起きた問題の一つが水枯れだ。
実験線の建設工事が始まったのは1990年。実験線もその8割がトンネル工事だったため、各地で地下水脈が断ち切られ、その数年後から各地の川が枯れた。
たとえば、大月市朝日小沢地区では、1994年に簡易水道の水源の沢が枯れた。2011年には、上野原市無生野(むしょうの)地区の棚の入沢(たなのいりさわ)が枯れた。