国や自治体の事業は必要か
行政の無駄遣いが指摘されるたびに、行財政改革が叫ばれる。審議会や委員会は山のように報告書や提言をまとめるが、現実はほとんど変わらない。そこで注目されてきたのが「事業仕分け」である。事業仕分けとは、国や自治体が行っている事業を、抽象論ではなく、具体的かつ「現場」の視点で、本当に必要かどうかを洗い直す作業である。その結果は、個々の事業の無駄にとどまらず、その事業の背後にある制度や国と地方の関係など行財政全体の改革に結び付けていくことができる。
手順を簡単にいうと、第三者である「構想日本事業仕分けチーム」が「評価者」となって、国や自治体に出向き、その事業について予算項目ごとに、そもそも必要かどうか、必要ならば誰がやるか(官か民か、国か地方か)を当該職員に質問しながら議論し、仕分けしていく。
まず担当職員が事業の説明を行う。次に評価者による質疑と議論を行う。そして最後に、多数決で「不要」「民間」「国」「都道府県」「市町村」などに仕分けていくのである。
「事業仕分け」の基本原則
事業仕分けには、以下の基本原則がある。(1)「外部の目」を入れる
利害関係にとらわれない、行政の事業内容や実態を熟知している外部の人(実際には「構想日本事業仕分けチーム」)が評価者となることで、踏み込んだ議論が可能になる。
(2)公開の場で議論する
議論の過程をすべて見せることで国民は行政の実態を知ることができる。
(3)ボランティアで実施
企業のコンサル業務とは違い、ボランティアだから一切のしがらみがなく、自由に発言ができて、思い切った仕分けができる。
(4)「そもそも論」で議論する
「制度で実施が義務付けられている」「補助金がもらえる」「前からやっている」といった既成事実にとらわれず、そもそも国民や住民にとって必要かどうかを議論する。
(5)具体的な事業内容で判断する
「中小企業支援」とか「青少年育成」などといった名称に惑わされず、実際に何をしているかを議論する。
事業仕分けには大きく分けて2つのパターンがある。「全事業仕分け」と「選択事業仕分け」である。全事業仕分けは、行政サービスの要不要や国と地方の役割分担の全体像を示すことを目的として、全事業について仕分けを行うやり方。「選択事業仕分け」は、現実の予算編成に結び付けることを目的として事業数を絞り、個々の事業の問題をより具体的かつ明確に示していくやり方である。
市長は「奇跡」と呼んだ
事業仕分けは2002年にスタートし、これまで多くの成果を挙げてきた。08年12月までに2つの省と40余りの自治体で実施することになっている。05年11月に滋賀県高島市で行ったケースでは、予算総額262億円のうち127億円分の事業仕分けを実施。そのうち約21億円が「高島市が手放すべき、もしくは効率的に実施することで削減が可能」との結果が出た。市はこれをそのまま翌年度の予算に反映し、予算総額の1割弱の歳出削減に結び付けた。こうして高島市は「破綻」の危機を逃れたわけだが、海東英和市長はこれを「奇跡の仕分け」と呼んだほどだ。
事業仕分けは、歳出削減だけではなく地方分権の切り札にもなる。地方分権を阻害している要因の一つは、国の自治体に対するコントロールであるが、作業過程で予算や事業の効率化を妨げている中央集権的な縛りや仕組みも同時に明らかになる。つまり、行財政全体の改革に結び付けていくことができるのである。
さらに、こうした作業による副次的な効果として職員と住民の両方に意識の変化がみられる。参加者たちの多くは議論が進むうちに、普段は考えてなかったが、この事業は本当に税金を使ってやるべきなのか、住民の役に立っているのかと考え始める。この気づきこそが行政にも国民にも重要なのである。
霞が関も「大掃除」に着手した
事業仕分けの有効性は、最近の内閣でも認められており、これまで「骨太の方針」や「行政改革推進法」にも仕分けを実施する旨の文言が盛り込まれている。しかし、霞が関の抵抗が強く、なかなか実現には至らなかった。こうしたなかで、構想日本が全面協力して、08年8月に自民党の「無駄遣い撲滅プロジェクトチーム」が事業仕分けの手法を使い、中央省庁の「政策棚卸し」作業に着手した。
これまで文部科学省と環境省について実施。文科省の事業仕分けでは特に、いくつかの自治体や学校を選定して実施させるモデル事業については、「モデルが成功だったか失敗だったかを測る指標がない」「自治体で実態把握が全くできていない」などの理由で、すべてが「不要」と仕分けられた。
事業仕分けは“戦後60年目の行政の大掃除”といえる。戦後一貫して拡大してきた行政サービスと、その背後にある制度についた垢をこの作業で洗い流し、これからの人口減少社会に備えなければならない。
この「大掃除」は決して行政や政治だけの問題ではない。事業仕分けは私たち国民の考え方や、国や自治体の仕組みの再構築に向けた議論をする場である。行政サービスの具体的な見直しを通じて、本当の意味での社会のリストラクチャリングを考えるきっかけにもなる。このシンプルな作業こそ、日本の大改革の起爆剤になるだろう。