対決姿勢を強めていった民主党
2007年7月の参議院選挙で自由民主党が大敗して、衆議院と参議院で多数派が異なる「ねじれ国会」が生まれた。衆議院の多数派によって組織される政権が、参議院で多数を欠いたことは過去にも例があるが、今回の特徴は、自民党が結党以来初めて参議院第一党の地位も失い、代わりに野党の民主党が議長と議院運営委員長を獲得して、参議院運営の実権を握ったことである。こうして、日本政治の二大政党化の流れの中で、衆議院と参議院が相対立する勢力によって主導される「ねじれ」構造ができあがった。両者はまず同年11月に期限の切れるテロ対策特別措置法の延長問題で激突した。参議院選での大敗にかかわらず、続投してこの事態に対処する構えだった安倍晋三首相が9月に突如政権を放り出したため、問題は後継の福田康夫首相の手に委ねられた。
福田首相が秘めていた策は、自民と民主の大連立だった。民主党の小沢一郎代表は、いったんこれを受け入れたが、党内の猛烈な反対で断念し、以後、民主党は参議院をとりでに自公政権との対決姿勢を強めていった。
野党の武器と与党の権限
参議院の多数派の地位を用いた政権に対する野党の対決の武器としては、まず衆議院から送付された政府・与党の法案の否決、逆に野党の政策の法案の参議院での可決と衆議院への送付がある。ただし法案については衆議院に優越権があり、参議院が否決しても衆議院が3分の2で再可決すれば、法案は成立する。また法案を参議院に送付して60日たてば、衆議院は参議院が法案を否決したものとみなすことができる。自公連立政権は現在、衆議院で3分の2の議席をもっているから、最終的に自らの目指す法案を成立させることができる。しかし参議院はその成立を最長60日引き延ばすことができ、その結果、テロ対策特別措置法の期限切れで、インド洋での多国籍軍への給油活動の一時停止や、ガソリン税の暫定税率の失効によるガソリン価格の一時的値下がりなどが生じた。
「ねじれ国会」における野党のより強力な武器は、参議院が衆議院と対等にもつ権限の行使で、例としては政府の任命に衆参の同意が必要な国会同意人事がある。日本銀行総裁人事をめぐる参議院の不同意は、08年3月から4月にかけて、日銀史上初めて総裁の空白をもたらした。
その他、証人喚問など、参議院単独で行使できる権限もあり、また首相に対する問責決議については、衆議院の内閣不信任決議のような法的効果は生じないが、政治的効果をめぐってさまざまな議論があった。08年の通常国会の会期切れを控えた6月、参議院は福田首相に対して初の首相問責決議可決を行った。首相はこれを無視したが、次期国会目前の9月に退陣表明をし、問責決議が一定の効果をもったとの見方も可能にする結果になった。
世界標準の議会政治を樹立せよ
「ねじれ国会」は、政権の政策遂行にとって大きな障害であることは確かである。このため、「ねじれ」が日本政治の停滞を招いているという見方がある一方で、それは道路特定財源やそのための暫定税率の維持などの、自民党型政治が思うように進まなくなったことに過ぎない、という見方もある。「ねじれ国会」への対応策としては、まず福田首相と小沢代表がいったん合意した大連立(衆参の第一党による連立)がある。参議院の権限が強い日本の二院制下では、今後も模索される可能性があるが、しかし大連立は、与党による政権運営と、野党による政権批判という役割分担を失わせ、大政党に都合の良い政治が行われて、民主主義が空洞化する恐れがある。
見過ごしてならないのは、現在の「ねじれ」による政治的停滞が、与党が衆議院で3分の2の議席をもち、再可決による原案の成立が可能な状態によってもたらされている面もあることである。衆議院を通過した政府・与党案を、参議院が直ちに否決すれば、衆議院がすかさず再可決するので、野党は最大限の60日の経過を待ち、逆に与党は再可決による原案成立にこだわるからである。
解散総選挙によって、民主党を中心とする政権ができれば、とりあえず「ねじれ」は解消するが、もし3分の2は失って、なお自公政権が続くとどうなるか。この場合は、参議院が否決すると与党はそれを元に戻す手段がないので、参議院の否決を受け入れるほかはない。これは一種の与野党共同統治ということになるが、大連立との違いは、与党と野党の役割が残ることである。
もうひとつ吟味すべき点は、参議院での対応を、衆議院議員中心の政党本部が決めている点である。つまり両院の議員間の対立でなく、政党間の対立になっていることである。本部の方針によってではなく、上院と下院の議員たちが状況に応じて法案への対応を自主的に決めるのが世界標準であり、日本でもそのような世界標準の議会政治を樹立することが、状況に柔軟に対応する政治を可能にし、「ねじれ」問題解決の前提になる。