日本が手本としたイギリスでは
二大政党制とは、二つの主要な政党があり、交代しながらそのどちらかが政権を担うパターンを指す。主要な2政党以外に全く他の政党が存在しないような「純粋な」二大政党制はまれで、小政党がいくつか存在するのが普通である。典型的な二大政党制とされるイギリスを例に、具体的に見てみよう。2010年5月の総選挙では、1974年以来30数年ぶりにどの政党も単独で過半数を得ることができなかった。下院の総議席数は650であるが、第1党の保守党は307議席、政権の座を失った労働党は258議席で、第3党として躍進が期待されていた自由民主党も結局57議席に終わった。しかも、これら主要3政党の他に、合計で8つの小政党が存在している。結果として第1党の保守党も半数の325を下回り、いわゆるハング・パーラメント(中ぶらりん議会)となったのである。
ただし、約47%の議席を得た保守党が、有効投票のわずか36%しか集めておらず、逆に23%の得票率を挙げた自由民主党がわずか8.8%の議席しか得られなかったことは重要な点である。つまり、イギリスの二大政党制は、完全な小選挙区制度、つまり人為的に多数派を作り上げる選挙制度に支えられているのである。
もう一つ注意しておきたいことは、二大政党制を担う二つの主要な政党が他の政党にとって代わられることがあるという点である。もともとイギリスの二大政党は、17世紀終わりから形成されたトーリー党とウィッグ党、その後の呼称では保守党(トーリー党)と自由党(ウィッグ党)であった。しかし、20世紀に入るころから労働党が勢力を拡大し、1920年代を境に自由党との立場が入れ替わった。それを象徴するのが1924年の総選挙でのハング・パーラメントであった。つまり、長い歴史の流れを見ると、二大政党は必ずしも固定されてきたものではないことがわかる。
システムを比較すれば問題が見えてくる
ここで、二大政党制をベースとした単独政権と政権交代の政治システムとは逆の組み合わせを考えておこう。それは連立政権と多党制であり、多くの場合は比例代表制をベースとしている。多極共存型の政治の仕組みとも言われている。この背景にあるのは、ひとつの国の中で、民族や言語、宗教などの違いによって、社会における亀裂が深刻かつ構造化されていることである。もしこの場合に小選挙区制を用いると、少数派は常に少数派となってしまい、彼らは議会に代表を送れない可能性がある。これを避けるための比例代表制であり、その結果多党制となる。
多党制の場合、政権の構成は連立がほぼ不可避となるが、むしろ、積極的に複数の政党が協力し妥協する枠組みを作るということが模索されている。そして、実際の政策決定と政権の運営は、政党リーダーたちの交渉と妥協を軸として行われるようになる。
この多極共存型の政治の仕組みは、社会的な亀裂が破滅的な対立を生じさせないための有効なやり方である。しかし、裏側の問題は、政権の枠組みをなかなか切り替えられず機動的な政策推進がやや難しいことと、リーダーたちの交渉と有権者の選択とがかみ合わない恐れがあるという点である。
こうして比較してみると、二大政党制は社会的な亀裂が構造化されていない場合に、小選挙区制度を用いて生みだされていると考えることができる。そして、主要な2政党のどちらかが過半数政党となって単独政権を形成するが、一定の間隔で政権交代を繰り返す仕組みである。このシステムの長所は、有権者の選択が比較的ストレートに政権の構成と政策に反映されることである。また、連立政権とは異なって責任の所在が明確で、国民はそれを基にして次の総選挙で政権を選び直すことができる。マニフェスト・サイクルはこうした考え方に立っている。
日本の政治はどうあるべきか
さて、日本の場合どう考えるべきだろうか。一つは、社会的な構成という最も基礎的な条件としては、日本は小選挙区制と二大政党制というパターンにむしろ適合的だろうという点である。つまりは、深刻な社会的亀裂が少ないということである。他方、実際の政党の配置は、二大政党制的な要素を強めつつあるが、依然として穏健な多党制の側面も大きい。公明党だけでなく、社民党や共産党の持続的な存在はそれを良く示している。日本の選挙制度は、衆議院、参議院ともに比例代表部分をかなりの程度含んでいることを反映している。自民党の長期政権時代、常に与党が固定され、総選挙では真剣な政策の論争が行われなかった。そして、有権者から「白紙委任」を取り付けた自民党は、族議員を中心とした内部の取引で政策を決めていた。これは国民に対する責任という面で極めて深刻な問題であったが、結局は政権交代がなかったことの弊害と言わねばならない。したがって、二大政党制の最も本質的な特徴が、政権交代にあるとするならば、日本の政治にとっては取り入れるべき仕組みである。そして、日本の基礎的条件はそれを許容すると思われる。
残された問題はむしろ、二大政党制をベースとした政権交代型のスムーズな運営を阻害するその他のさまざまな政治制度のあり方である。二院制とねじれ、国会と政府との権限構造、国会における審議ルール、そして民主・自民両党の党内ガバナンスなど、実に枚挙にいとまがない。他方で、比例代表部分を残し、少数派が一定の代表と政治力を確保できるようなバランスは是非とも維持すべきであろう。