今年2016年は、女性参政権取得から70年目となる年だが、残念ながら日本の女性議員の割合は、衆議院で9.5%、参議院で20.7%と低い。さらに地方では、女性議員が一人もいない議会が全自治体の20.1%という数字も問題だ。こうした状況に「日本は真面目に民主主義を考えていない」と警告するのは、三浦まり上智大学教授。これを打破するには「クオータ」の導入が必須とも語る三浦教授に、その歴史と必要性、実施に向けての可能性を尋ねた。
120カ国近くで採用されているクオータ
2016年7月、東京都知事に小池百合子さんが、9月には民進党代表に蓮舫さんが就任し、女性の政治代表者として注目を集めています。しかし、日本の議会における女性の数はまだまだ少ない状況です。こうした男女の不均衡を是正するために期待されているのが「ジェンダー・クオータ(gender quota:性別割当制。以下「クオータ」と略す)」の導入です。
クオータとは、選挙候補者、あるいは議席の一定比率を女性(あるいは両性)に割り当てる制度で、前者は「候補者割当」、後者は「議席割当」といいます。
また法律に規定する「法的クオータ」と、政党内で割り当てる「政党クオータ」という分類の仕方もあります。
クオータは、1975年、ノルウェーの2つの政党が、立候補者の40%を女性にするとしたことから始まりました。それが近隣国や西ヨーロッパに広がり、90年代半ばまでに11カ国、21の政党で採用されました。その後も、ラテンアメリカなどの新興民主国では「女性議員の進出が民主主義のバロメーター」と考えられ、クオータを採用する国が広がり、2016年現在、120近くの国が採用しています。
日本におけるクオータへの取り組み
それでは、日本での取り組みはどうなっているのでしょう。今年の5月31日、クオータを推進する法案として、民進党、日本共産党、生活の党、社民党の野党による4党共同で「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律案(推進法)」を、民進党単独で「公職選挙法の一部を改正する法律案」を提出しました。当初、与党も含む超党派での提出をめざしたものの、前国会では一部の文言をめぐって合意が成立せず、野党が単独で提出しました。与党案が提出されれば、そこで与野党間の調整が図られる見込みです。
2法案の提出に至った大きなきっかけは、女性団体9団体(2016年9月16日現在、賛同団体は56団体)などで構成された「クオータ制を推進する会(Qの会)」が12年に発足したことでした。労働省婦人局長や、細川護煕・羽田孜両内閣で文部大臣を務め、女性の地位向上に尽力してきた赤松良子さんが代表の団体です。
この「Qの会」が院内集会を開催し、議員やマスコミなど関係各所に働きかける中、15年に、民主党政権で男女共同参画担当大臣だった中川正春衆議院議員が「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟」を呼びかけました。会長に中川議員が就任、自由民主党の野田聖子衆議院議員が幹事長を務め、現在は衆参両院の与野党議員56人が参加しています。
私は以前から、海外のクオータに関して比較研究という形で研究をしていたこともあり、議連のワーキングチームの有識者アドバイザーとして提言を行ってきました。今臨時国会でこの推進法が通ることを切に願っている者の一人です。
2011年、政府の公式文書に「クオータ」登場
1989年、参議院議員選挙で社会党の土井たか子委員長(当時)が、市民派のクリーンな12人の新人女性候補を立てました。これは土井さんが、市民の女性たちとつながってきた土壌があってのことです。これが女性の圧倒的な支持を受けて、計22人の女性議員が当選しました。当選者に占める女性比率が17.5%にアップしたことは、その後、他党でも女性候補の数を増やす契機になりました。1990年代の中選挙区から小選挙区への移行という衆議院選挙制度改革の議論の中で、すでにクオータは話題になっていました。小選挙区は女性候補にとって不利であることから、女性議員や女性団体が問題視したのです。しかし、94年に小選挙区比例代表並立制を骨子とした新選挙制度が成立してしまったことで、それ以上議論が発展することはありませんでした。
それでも、クオータを導入する国の増加や女性議員の台頭、女性の地位や権利の向上をはかろうという国際情勢もあって再び関心が高まっていきます。
2010年12月の「第3次男女共同参画基本計画」には「(前略)女性候補の割合を高めるために(中略)クオータ制の導入などを検討するように要請する」という文言が織り込まれました。さらに11年6月に発刊された「男女共同参画白書」で、政府の公式文書に「クオータ」という言葉が初めて登場しました。
1986年の男女雇用機会均等法施行から、これまで女性に関する様々な法律が施行されてきました。そこから長い年月を経て、やっと今回の法案提出となったのです。
小選挙区が大きな障壁に
これまでクオータが実現しなかったのには様々な理由があります。まず、女性議員が増えるということは、現職の男性議員が落選することにつながりますから、男性議員にとって抵抗感のある制度になります。また、女性は政治に向かない、夫が立候補し妻がサポートという図式はあっても逆は考えにくいという性別役割分担など、社会通念も障壁となります。
もっと問題なのが小選挙区制です。家事や育児、介護を担う女性には、地元の行事への参加や挨拶回りなど、選挙運動のために割ける時間はほとんどありませんから、そもそも候補者になることが難しくなります。
共産党や公明党のように地方で基盤を持っていれば、婦人部から女性候補が上がってきやすいという面があります。今年、参議院議員の女性の割合が20%以上になったのは、参議院議員選挙の議席が増えた選挙区で、公明党の女性立候補者が3人当選したことも影響しました。しかし、自民党や民進党は候補者選定にあたって県連の有力者などが大きな力を持ち、トップダウンで女性候補者を立てようとしても実現しにくい状況となっています。
比例区のほうがまだ女性候補が当選しやすいものの、日本のように小選挙区と比例区で重複立候補が可能であることは問題です。比例代表が小選挙区で落選した候補者の救済制度になってしまっています。多様な候補者が選出されるという比例代表のメリットが活かされていません。
“数”以上に重要なのが“質”
ここまで、女性議員の“数”を増やすことについてお話ししてきましたが、今後、女性議員数が増えたとして、数以上に重要になるのが“質”です。土井さんのマドンナ・ブームの例はありますが、女性がトップならば女性議員が増えるという単純な構図ではありません。