公開相次ぐ「アフリカ」映画
ここ数年、アフリカを舞台とした映画が、日本で相次いで公開されている。ケニアを舞台に、イギリスの製薬会社による人体実験を暴くサスペンス「ナイロビの蜂」。シエラレオネの内戦で、武器と引き換えにダイヤモンドをヨーロッパに密輸する国際企業の実態が描かれた活劇「ブラッド・ダイヤモンド」。タンザニアのビクトリア湖に放流されたナイルパーチをヨーロッパに輸出する企業と、現地の貧困の実態を記録したドキュメンタリー「ダーウィンの悪夢」。1994年のルワンダ内戦時の大虐殺を扱ったドラマ「ホテル・ルワンダ」と「ルワンダの涙」。アパルトヘイト廃止後の南アフリカで、少年ギャングの日常化する暴力を扱った「ツォツィ」。南アフリカからイスラエルの聖地エルサレムに巡礼に行こうとして、入国時に不法入国扱いされることをきっかけに、金にまみれたこの国の実態を経験するはめになる牧師志望の黒人青年を描いた「ジェイムズ聖地へ行く」。難民キャンプの母の教えに従い、ユダヤ人と名乗ってイスラエルへの移民に成功するエチオピアのキリスト教徒の息子の幼年・青春時代を追う「約束の旅路」など(、、)。なぜ、アフリカの出来事をテーマとする映画が、日本でも大々的に宣伝され、目白押しに公開されるようになったのだろうか。それは、この大陸に「問題」が山積みされているからだ。
アフリカ大陸は、内戦、難民、少年兵、ストリートチルドレン、HIV/エイズと、富裕国の観客の心を動かす話題に事欠かない。世界の最貧国(国連によれば40近くある)が、ほとんどこの大陸に集中し、武力紛争で国連のPKO(平和維持活動)の出番が一番多く、HIV/エイズの感染者も世界のトップ水準だ。したがって、世界の経済大国の首脳が集まるG8(先進国首脳会議)や国連総会でも、ここ数年来、「アフリカ問題」の深刻さが必ずと言っていいくらい強調される。
「助けるのは白人」という図式
これらの映画を観ていて気づくのは、ほぼ共通して、登場するアフリカ人がすべて貧困や暴力や差別の被害者となっているのに対して、救済者の方は圧倒的に欧米人が多いという点だ。「アフリカ問題」に熱心に取り組む救済者や、勇気と正義感にあふれたヒーローは、「ホテル・ルワンダ」のホテル支配人と「ツォツィ」の主人公の不良少年を除いて、すべて欧米人か、欧米が牛耳る国際援助機関であり、アフリカ人はワキ役になっている。ルワンダを扱った二つの映画での国連平和維持軍、「ブラッド・ダイヤモンド」「約束の旅路」に登場する世界食糧計画(WFP)と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)。アフリカがひたすら外部によって「助けられる」大陸であることを教えるかのようだ。しかし私は、自分たちの社会が抱える問題に対し、勇気と希望を持って懸命に取り組んで生きているアフリカ人を多く知っている。「困るのはアフリカ人、助けるのは白人」という図式は、あくまでも映画のストーリーであって、現実は必ずしもそうではない。
一方で、「アフリカ問題」の加害者の側は、多国籍化している。「ダーウィンの悪夢」や「ナイロビの蜂」、「ブラッド・ダイヤモンド」では、アフリカ人と欧米人の入り組んだ共犯関係ないし利害関係を設定し、ダイヤやナイルパーチを購入する私たち富裕国の観客にとって「対岸の火事」では済まない問題に目を向けさせている。この点は評価したい。
しかし、「問題だらけ」のアフリカに対して、富裕国の欧米人が救済に活躍する構図だけで現代アフリカを見ていては、この大陸の多様な実像が見えてこない。「問題」なく生きているアフリカ人や、平和なアフリカの毎日も存在しているのだ。アフリカの人々の多くは、私たちより経済的に貧しいかもしれないが、アフリカにあるのは「問題」だけではないのだ。生活があり、日々の生産があり、消費があり、文化がある。
ビールとアフリカ
文化という点で気づいたのは、どの映画でもビールを飲むシーンがおびただしく盛り込まれていることだ。いずれもほとんど地元産の瓶ビールである。ヨーロッパがこれらの国を植民地支配した時、宗主国から持ち込むには重すぎたため、ビールとセメントについては侵略先に工場が作られた。アフリカ諸国では、独立後もこれらの部門は数少ない製造業として残っている。それだけに伝統もあり、結構飲める。グラスは壊されたり、持っていかれたりしてしまうので、ボトルから直接飲むのが一般的だ。また、トウモロコシやヤシから作るビールやワインもある。「ブラッド・ダイヤモンド」で、ディカプリオが、ミネラルウォーターの空きボトルで白っぽいヤシ酒を飲むシーンがあるが、この酒は、韓国のマッコリみたいにジワジワくる。やや赤みを帯びたディカプリオの目の周りが、私にはやけにリアルに映り、印象に残った。
最後に、アフリカ人自らがアフリカの映画を精力的に作っており、アフリカのブルキナファソで2年おきに映画祭も開催されている(www.fespaco.bf)ことを記しておこう。