早くも過熱する大統領選挙
2008年のアメリカ大統領選挙の前哨戦が過熱している。11月の本選挙の1年以上も前から、2大政党の民主、共和両党の候補者指名争いが加速し、過去の大統領選に比べ異常な盛り上がりをみせている。その最大の原因は、イラク情勢の泥沼化に伴って、ブッシュ大統領の支持率が、歴代大統領のなかでも最低に近い20%台に落ち込み、メディアから「レーム・ダック(死に体)大統領」の烙印(らくいん)が押されたことから、アメリカ国民の関心がすでに「次期大統領」に移ってしまったからだ。今回の大統領選には、合衆国憲法で3選を禁止されているブッシュ大統領は出馬できず、チェイニー副大統領は早々と不出馬を表明し、半世紀ぶりに現職の正副大統領が立候補しない異例の選挙となる。07年9月現在、民主党からは8人、共和党からは10人が候補者指名争いに名乗りを上げている。世論調査による支持率をみると、民主党では、クリントン前大統領夫人のヒラリー・クリントン上院議員、04年の党全国大会で行った基調演説が高く評価され、一躍有力若手政治家として脚光を浴びたオバマ上院議員、前回の04年選挙に副大統領候補として出馬したエドワーズ元上院議員の3人がリード。共和党では、01年の9.11同時多発テロの際に、優れた危機管理能力を発揮したジュリアーニ前ニューヨーク市長、「レーガン大統領の再来」として期待を集める俳優のトンプソン元上院議員が抜け出し、親子二代で大統領をめざすロムニー・マサチューセッツ前州知事が続く。「ベトナム戦争の英雄」マケイン上院議員は高齢のうえ側近が選挙活動から離脱するなど苦戦している()()。
初もの尽くしの多彩な顔ぶれ
アメリカの歴代大統領は、1960年に当選した唯一のカトリック教徒ケネディを除き、ほとんどが白人プロテスタント教徒の男性で占められている。今回の候補者には、初の女性大統領をめざすヒラリー候補、初のアフリカ系(黒人)大統領の期待がかかるオバマ候補、初のイタリア系のジュリアーニ候補、初のモルモン(末日聖徒イエス・キリスト教会)教徒のロムニー候補、他にも民主党から初のヒスパニック系のリチャードソン・ニューメキシコ州知事が出馬しており、初もの尽くしの多彩な顔ぶれ。さらに共和党を離党して無所属になった大富豪のブルームバーグ・ニューヨーク市長が「第3の候補」となるとの見方も出ている。資金集めも過熱している。2007年上半期(1~6月)に、共和、民主両党が集めた資金総額は3億ドル近くに達し、このペースで進むと、本選挙までに、これまで最高だった04年選挙の8億8000万ドルを上回り、史上初めて10億ドルを突破するものとみられている。民主党では、1~3月期はヒラリー候補がトップだったが、4~6月期はオバマ候補が逆転した。オバマ候補の場合は、草の根層のインターネットを通じた少額献金の多さが目立っている。共和党では、1~3月期にトップだったロムニー候補を、4~6月期にはジュリアーニ候補が逆転した。各候補が資金集めに奔走しているのは、多くの州で予備選挙の日程が繰り上がり、前倒しで活動資金が必要になったからだ。
08年2月には両党候補が事実上確定
民主、共和両党の候補者指名争いは、各州に割り当てられた党大会に出席する代議員票をめぐり、党員集会・予備選挙で各候補が競い合い、最多得票した候補が勝利する仕組み()。従来の大統領選挙では、年明けに行われるアイオワ州党員集会と、ニューハンプシャー州予備選挙の結果が大きく影響し、カリフォルニアなどの大きな州を含め、多くの州の予備選・党員集会が集中する「スーパーチューズデー」で大勢が決するという形だった。そこで各州は、注目度の高い、早い時期を狙って予備選挙の日程を大統領選挙ごとに前倒しにしてきたが、今回は多くの州がさらに2月5日(前回は3月2日)にまで日程を繰り上げた。このため、20州以上の予備選挙が集中する2月5日は、「メガチューズデー」と呼ばれ、その当日に民主、共和両党の次期大統領候補が事実上決定するとみられており、候補者指名争いはかつてない短期決戦になる見通しだ。予備選挙の結果を受けて、民主、共和両党は08年8月末と9月初めに、それぞれ開催する全国大会で正副大統領候補を正式に指名し、11月4日に行われる本選挙(一般有権者による投票)に臨む。どちらが勝つか。06年11月の中間選挙で共和党を破り、12年ぶりに上下両院で多数党となった民主党には勢いがあるうえ、ブッシュ政権の不人気も手伝って、政権交代の可能性は濃厚だ。初の女性大統領が生まれるか。それとも初の黒人大統領が出現するのか。いずれにしても歴史的な大統領選挙になりそうだ。