地球温暖化の脅威に対して、いま世界はどのように動いているのか、日本はどうすべきなのか。
「京都議定書」とは?
気候変動枠組み条約は、1992年に採択された地球温暖化防止を目的とした基本的な条約である。京都議定書は、この条約に基づいて、先進国に二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの具体的な抑制目標を定めたもので、97年に京都で採択され、2005年2月に発効した。京都議定書により、第1約束期間として設定された08~12年までに、先進国は1990年と比べて、先進国全体で温室効果ガスを5%削減する義務を負う。国別では、EUは8%、アメリカは7%、日本は6%などとなっている。ただしアメリカは、気候変動枠組み条約にはとどまっているものの、京都議定書から2001年に離脱している。()
日本の排出量は、06年に1990年比で6.4%増となっており、目標を達成するのは極めて困難な状況である。また、近年の経済成長に伴い、排出量が急拡大している中国やインドなどの途上国は、削減の義務を負っていない。()
京都議定書の約束期間以降(13年以降)の、「ポスト京都議定書」とも呼ばれる国際的な枠組みは決まっていないので、現在、その枠組み作りが重要な課題となっている。
動き始めた「ポスト京都」
2007年12月に、インドネシアのバリ島で開催された、気候変動枠組み条約第13回締約国会議(COP13)・京都議定書第3回締約国会議(MOP3)は、ポスト京都の本格的な国際交渉の場となった。バリ会議は、会期を丸一日延長する困難な交渉の後、ポスト京都の国際的な枠組み交渉に向けた行程表を採択して閉幕した。この行程表は、「バリ行動計画」、通称「バリ・ロードマップ」と呼ばれる。
バリ・ロードマップは、ポスト京都の内容と交渉日程を示したものだ。具体的な削減目標は明記されなかったものの、アメリカや途上国を含む、すべての国が参加する交渉のプロセスが合意された。また、温室効果ガスの削減目標を産業別に設定することも検討されることになり、途上国への省エネルギー技術の移転や、温暖化による被害への措置である適応対策に資金を援助する「適応基金」の設立、森林減少への対策についても具体的な進展があった。
さらにバリ・ロードマップでは、温室効果ガスの大幅削減が必要であるとした、IPCCの「第4次報告書」を認識するとともに、ポスト京都について議論する二つの特別作業部会(すべての国を対象とする部会と、京都議定書の下の先進国を対象とする部会)を設置して、13年以降の枠組みについて09年までに交渉を終え、同年末に開催されるCOP15での最終合意と採択を目標とすることが決められた。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、気候変動に関する科学者の集まりである。07年発表の「第4次報告書」では、地球温暖化を防ぐためには、地球全体で温室効果ガスの排出量を今後10~15年で減少させ、2050年には半減が必要とし、そのため先進国には、2020年に1990年比25~40%の削減を求めている。
この数値目標は、今後の議論の基礎となるものとして、バリ会議参加国の共通認識となった。バリ・ロードマップの本文では削除されたものの、京都議定書の作業部会の決議では、13年以降の先進国の削減目標を考える目安として明記されている。
今後、08年末にはポーランドで第14回締約国会議(COP14)が開催され、09年末にデンマークで開催されるCOP15へと続く。ポスト京都の枠組みは、各国の国益に直結するため、温暖化対策は今後、APEC(アジア太平洋経済協力会議)など、国際的な政治や経済交渉の主要なテーマになる。アメリカや途上国を含むすべての国が対象となるので、先進国のみが削減義務の対象となった京都議定書の策定過程よりも、より複雑で困難な交渉が予想される。
世界各国は、気候変動枠組み条約締約国会議や、その下での作業部会などの場を中心に協議することになる。主要国首脳会議(G8サミット)など、さまざまな外交の場でも議論が展開される。
日本がリーダーシップを示すために
2008年7月には、北海道の洞爺湖で、温暖化対策を主要議題としたG8サミットが開催される。バリ・ロードマップに基づき、京都議定書の目標達成と、それ以降の国際的な枠組みについて、G8としての取り組みを具体化する場となる。今後の世界的な交渉を前進させる重要なステップだ。サミットの議長国である日本がリーダーシップを発揮するためには、国として京都議定書の目標達成の確かな方向性を打ち出すことと、中長期の温室効果ガス削減目標に関する具体的な提案を避けることはできない。
日本としては、早急に抜本的な政策転換を図り、京都議定書の目標達成と、「低炭素社会」構築への道筋を明らかにする必要がある。そして、低炭素でも発展することができ、うるおいと品格のある国を目指す環境経済戦略を確立することが求められる。
具体的には、CO2排出に価格を付けて温室効果ガス排出量を企業間で売買する「キャップアンドトレード型国内排出量取引制度」や、化石燃料の使用に対して炭素の含有量に応じて課税する「炭素税」の導入を進めること、さらには、自然エネルギー利用の拡大策を具体化し、社会システムと市場ルールそのものを環境配慮型に変えていくことが急務だ。
世界のトレンドは、環境政策と経済政策を統合し、市場に継続的な環境改善や技術革新を促す仕組みを組み込むことにある。地球温暖化に代表される環境制約を新たな経済発展の機会と捉え、少ないCO2排出で、なおかつ豊かで安定した社会を目指すことが望まれる。現実に、オーストラリアやアメリカでの政策転換の動きもあり、CO2に価格をつけたEU発の排出量取引制度が、世界の同様な制度とリンクしながら拡大している。
産業界も、従来の省エネのみでなく、新たなビジネスモデルや事業の展開が望まれる。金融面では、それを資金の流れの面から支援し強化する「カーボン・マーケット」や「環境金融」が広がっていくだろう。
市民は、省エネ・省資源型の製品購入、公共交通や断熱性能の高い住宅の選択など、自らの消費スタイルやライフスタイルを見直すとともに、環境に配慮している企業への投資や、明確な環境政策を掲げる政治家に投票するなど、投資・投票行動においても環境配慮の意思を明示していくことが必要だ。