温暖化の影響は、遠い将来の出来事ではなく、すでに現れている地域や分野があり、将来、何らかの対策を行わない場合、その被害はきわめて大きなものとなると予想されている。温暖化の影響は、長期にわたる地球規模の問題であり、予想される深刻な影響は我々の生活基盤を脅かすものと考えられる。このため、気候の安定化に向かって世界全体で協調し、努力していくことが求められている。
温暖化の可能性を指摘するIPCC「第4次評価報告書」
2007年、気候変動に関する政府間パネル「第4次評価報告書」(IPCC AR4)が公表された。温暖化を自然科学的な側面から評価する第1作業部会は、気候システムの温暖化には疑う余地がなく、それはさまざまな観測データから確認されている、と報告した。また20世紀半ば以降に観測された世界の平均気温の上昇は、人間の活動による温室効果ガス(GHG)増加による可能性が「かなり高い」とし、「第3次評価報告書」の「可能性が高い」より、さらに踏み込んだ表現を用いている。
温暖化による「影響・適応・脆弱(ぜいじゃく)性」の評価を行う第2作業部会は、「第3次評価報告書」以降、より多くの観測データが過去5年間に蓄積され、それらを分析した結果、多くの物理・生物システムが、近年の地域的な気温変化、とりわけ気温上によって、今まさに影響を受けている、と報告している。
すでに現れている温暖化の影響
温暖化の影響を受けているその例が、図表1である。また図表2は、(1)1990年以降に研究が終了し、(2)少なくとも20年間以上にわたって観測が行われ、(3)個別の研究の場合には、いずれかの方向に著しく変化しているという傾向を示す、といった3つの基準を満たす75件の研究から得られた、約2万9000件の観測データに基づいている。
「生物環境」では2万8671の観測データの90%が、「物理環境」では765の観測データの94%が、温暖化による影響を今まさに受けている、と報告している。
温暖化の影響の観測は、まだ始まったばかりである。75件の研究のうち70件は、「第3次評価報告書」以降の新しい研究である。また、図表2で観測されていない地域は、温暖化の影響が現れていないのではなく、前述の(1)-(3)の条件を満たす研究がまだ行われていないだけであり、さまざまな影響がすでに生じている可能性も懸念されている。
図表2で示されている日本で確認された影響は「生物環境」の一点のみであるが、さまざまな分野で温暖化による影響と懸念されている事象が数多く報告されている。
このまま温暖化が進むとどうなるのか?
「第4次評価報告書」の第2作業部会では、将来の温暖化の影響の予測を、分野別(淡水資源、生態系、食料・繊維・森林林産物、沿岸・低地地域、産業・居住・社会、健康)、および地域別(アフリカ、アジア、オーストラリア・ニュージーランド、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、北アメリカ、北極・南極の極域、小島しょ)別に報告している。例えばアジアでは、ヒマラヤ山脈の氷河が溶ければ、洪水や不安定になった斜面からの岩なだれが増加し、きたる20-30年間に水資源に影響を及ぼすことが予測されている。また、氷河が後退することにともない、河川を流れる水量の減少も懸念されている。
さらに、中央・南・東・東南アジアでは、淡水を利用できる可能性は、特に大河川が集まる河川域においては、気候の変化によって淡水の利用が減少する可能性が高いと報告されており、人口の増加と生活水準の向上とが重なり、2050年代までに10億人以上の人々に悪影響が生じ得ることも懸念されている。
ただちに着手が求められる対応策
温暖化の影響は長期にわたる地球規模の問題であり、予想される深刻な影響は、我々の生活基盤を脅かすものと考えられる。しかし、国や地域、影響を受ける分野で異なる特徴を示す温暖化の影響を考慮して、回避しなければならない危険な水準に関する明確な知見はまだ得られていない。世界各地で、またさまざまな分野で、深刻な影響が予測されている。また、わずかな気温上昇によっても、影響を受ける分野や地域が明らかにされてきている。こうしたことから、地球温暖化を抑制することは、一刻も猶予できない状況であることがわかる。
したがって、短期、中期に加えて、長期も含めた世界共通の具体的な温室効果ガス削減目標を設定し、気候安定化に向かって世界全体で協調して努力していくことが今求められている。
((資料))
温室効果ガス(GHG)
(greenhouse effect gas)
地球を取りまく大気中の二酸化炭素やメタンなどのガスは、畑作に使うビニールシートのように地表をおおい、太陽熱の放射をさまたげて地球を暖める働きがある。こうした温暖化寄与ガスには上記のほか、一酸化窒素、代替フロン等がある。
(資料)
IPCC「第4次評価報告書(AR4) 第1・2作業部会(WG1・WG2) 技術的要約(TS)」