まだ吸えるだろうか?
今年2月、厚生労働省は、公共の場における受動喫煙防止についての通達を出し、飲食店やホテルなどの公共施設の全面禁煙や、職場の全面禁煙を進める方針を打ち出した。これは、「たばこの規制に関する世界保健機関枠組み条約」締結国に課せられた責務を履行するための一歩である。この条約では、条約が発効してから5年以内に、各国に、屋内の職場、公共の場所、公共交通機関における罰則付きの法的規制を実施するように求めている。5年以内の期限は今年2月27日だった。日本は厚労省通達により、不完全ながら少なくともその一歩は記したことになる。
喫煙者諸氏は、こういう現状に気づいているのだろうか? どうみても喫煙者は「待ったなし!」の状況に置かれている。それなのに、卒業を間近に控えた喫煙学生に禁煙を迫ると、「タバコォ? まだやめる気ないっすよ」「まっ、就職したら考えますう」など、のんきな答えが返ってくる。
歩く毒ガス発生装置
そもそも、なぜ受動喫煙がうるさく言われるようになったかのか。タバコは吸っている本人の健康だけでなく、その煙を吸わされる周囲の人の健康をも害することが問題だからだ。その上、最近は、タバコは吸っていないときでも喫煙者が他人に悪影響を与えていることがわかっている。それを名付けて「third hand smoke」と呼ぶ(受動喫煙は、「second hand smoke」)。
たとえば、家族を大切にするお父さんが、子どものいない外で吸えばよいだろうな、と考え、ベランダで吸って部屋に戻ってきたとしよう。すると、喫煙者の服や髪の毛にはタバコ臭煙の成分が染み付いていて、それが蒸散し部屋の空気を汚染する。さらに喫煙者の吐く息には有害物質が高濃度で含まれている。これは禁煙外来で測定する吐く息の一酸化炭素の数値を見てもわかる。喫煙者は、喫煙後数時間たっていても、18ppmとか30ppmというような高濃度の一酸化炭素を吐いている(正常値:0~4ppm)。
つまり、その場でタバコを吸っていなくても、喫煙者の呼気はいわば「毒ガス」、喫煙者自身が「歩く毒ガス発生装置」なのである。善良な喫煙者の多くは、恋人と語らいながら、赤ちゃんを抱きながら、妻と枕を並べて眠りながら、自分が「毒ガス発生装置」になっていることに気づいていない。また、最近では、タバコを吸う人は「3K」すなわち「臭い」「汚い」「かっこ悪い」といわれている。
さて、こういうタバコの真実に気付いた喫煙者の方にとって、今が卒煙の絶好のチャンスであることは間違いがない。
最新の禁煙方法
さあ、タバコはやめましょう! そうは言っても多くの人が「禁煙は大変だろうな」と思われるだろう。でも、今は薬も禁煙を助けてくれる時代。なにしろ、かつては病院でしか手に入らなかったニコチンパッチやニコチンガムを薬局で購入できるのだ。また、一人では自信がない人や、何度も失敗している人は医療機関で禁煙治療を受けることもできる。病院では、行動療法に基づくカウンセリングを受けながら、禁煙補助薬を使って禁煙することができる。医療機関での禁煙は、いくつかの条件をクリアすれば健康保険が使えるし、最近は飲み薬タイプの禁煙補助薬も使われる。禁煙治療の医学は少しずつ進化してきている。
また、筆者が監修して制作した、ニンテンドーDS「もしも!? 禁煙するなら…」や「らくらく禁煙アプリWii-禁煙科の医者が教える7日でやめる方法」がある。ゲーム世代の遊び心で禁煙したい向きはぜひ試していただきたい、。
そんなわけだから、今では、「とにかくがまん!」の禁煙は過去のものになっている。安心して、禁煙を決意してほしい。
まず自分の依存度を知ろう!
禁煙するに当たって、自分を知ることが大切である。自分のニコチン依存の程度を知ることのできる簡単なテストがある。ニコチン依存度テストの結果の合計点が、7点以上の人は依存度がとても重い。ニコチンガムやパッチを準備してから禁煙をスタートするほうが楽そうだ。また3点以下の人は依存の程度は軽い。4点から6点の中間の人は、そこそこ依存があると思ってよい。依存度が軽い人はニコチンが入った禁煙補助薬は使わないで禁煙できる。以下に紹介する「禁煙成功への秘訣」をよく読んで、自信を持って禁煙を始めてほしい。成功する禁煙の秘訣とは?
禁煙の成功の秘訣は3つある。まず第一は、禁煙の理由を明確にすること。一般論としての「健康によくない」ではなく、自分にとっての特別な禁煙理由を見つけられると成功しやすい。第二は、小さな目標を立て、それを次々成功させていくこと。短期スケジュールで成功を増やせば成功体験が自信を育てる。三番目は禁煙後のメリットを見つけられること。第一の明確な禁煙理由については、多方面から考えるとよい。日本では2003年に施行の健康増進法により、数年前から、昔のようにどこでもタバコを吸えるという環境ではなくなった。喫煙できる場所を探すのは年々大変になってきているし、会議も禁煙となり、少し長引くとニコチン切れで集中力が落ちてしまう。禁煙したら、もうそんな面倒とはおさらばである。また、火事の心配もなくなり精神的にも楽になる。お金もかからなくなる。煙たがられなくなり、人間関係も今より少しよくなるかもしれない。
禁煙できたら何をしようかなと、夢を膨らますのも禁煙の楽しい理由になる。禁煙を目的にするのではなく「禁煙したら、あれもやりたい、これもやりたい」と考えておくと意欲が増す。「禁煙はあくまでも通過点」ということにしてしまえば禁煙のハードルはぐっと低くなってくる。
第二は、登山を考えてみるとよい。少しずつ登っていくと、そこから見える景色も変わってくる。1年禁煙するぞ、というような遠い目標だけでは遠すぎて息切れを感じてしまいがちなのだ。たとえば「3日間は乗り切るぞ」というように、少しの努力で達成できそうな目標を設定し、これをクリアして成功体験を積むことが大切だ。こうすることにより達成感を得やすく、「やればできる」という自信がわいてくる。そして不思議なことに、私たちは成功体験により、もっと先の目標を立てていけるように成長していくことができる。これはスモールステップ法という禁煙を成功させる大切な考え方である。
第三は、報酬による動機の強化、つまり禁煙のメリットに目を向けることだ。禁煙をするとよいことはたくさんあるが、いかんせん、禁煙直後は禁断症状のために「禁煙すると調子が悪いなあ」ということになりがちで、禁煙のメリットに気づかないことがあるから気をつけないといけない。
禁煙すると、たんが減ったり息切れが改善するし、周囲に不快を与える強い口臭から解放される。それ以外にも、しわが目立たなくなったり、肌につややハリが戻って肌年齢が若返ったり、肩こりが楽になったりなど、禁煙のメリットはたくさんある。禁煙すると荷物が減るしお金もかからなくなり、喫煙場所を探す必要もなくなる。こういうふうに「禁煙のメリットに目を向けることができる」ということも、禁煙を長続きできる人の実力のひとつなのである。
そろそろ禁煙をと思っているあなた! いまどき禁煙することは、いろんな意味で、かなり、かっこいいことなんですぞ。