マイナンバー制度とは
マイナンバー(個人番号)とは、生まれてから死ぬまで変わらない、国民一人一人に割り当てられる、その人だけの12桁の番号のことです。2013年5月の「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号利用等に関する法律」(マイナンバー法)で実施が決まりました。15年10月より全国民にマイナンバーが通知され、16年1月からこの番号を示して諸給付の申請をするなど、マイナンバーの利用が開始します。同時に、希望者には顔写真・住所・生年月日・性別が記載されたICチップ搭載の「個人番号カード」も配布されます。年金や児童手当などの社会保障の情報や、税・保険料などの負担の情報など、複数の機関が持つ個人の情報について、同一人の情報であることが簡単に確認できるようになります。これによって行政事務が効率化され、また国民にとって行政手続きが簡素化されるだけでなく、負担や給付の情報が的確に把握できるようになることで、給付の漏れや無駄も防ぐことができると考えられます。今のところ、マイナンバーにより照会できる個人情報は限定されていますので、その効果も限定的ですが、将来、医療情報や預貯金情報など広い分野での活用が検討されています。
検討されては消えた番号制度
国民一人一人に変わらない番号を付す制度は、個人の所得の情報を効率よく管理して公正な課税を行うためにも、また住所や職場が変わった場合などで行政サービスが滞りなく提供できるためにも、国にとっては大変便利な制度です。それにより事務効率が上がりサービスが向上することは、国民にとっても望ましいことのはずです。しかし、国民が国に十分な信頼を寄せていない状況では、所得や資産などの情報が国に把握されることに対する抵抗感の方が勝って、番号制度はなかなか実現しません。1960年代末の「国民総背番号制」も、80年代はじめの「納税者番号制度」も、検討されましたが実現しませんでした。個人情報の保護に対して不安を持つ国民の強い反対の中、2003年に交付が開始された住民票コードが記載された「住民基本台帳カード(住基カード)」は、その利用が転入出手続きの簡素化やインターネット経由による確定申告などに限定されていたため、利用者は増えませんでした。ただ、この経験が今回のマイナンバー制度の実現につながっていると考えられます。
ようやく動き出した本来の番号制度
大きく状況が変わったのは、社会保障給付の管理のために番号制度が有効であり、かつ必要である点が徐々に認識されるようになったことです。社会保障カードを用いて医療情報や年金情報が照会できれば、救急医療や医療連携、年金権の保護などに役立たせることができます。また、社会保障の給付費が増加し、消費税を上げるなど国民の負担も増加するようになり、必要な人に必要な給付が公平、確実に、また無駄なく支給されることが重要になりました。それには一人一人の所得状況を正確に把握することが必要です。今回のマイナンバー制度が具体的に検討されるようになるのは、2009年成立の民主党を中心とする連立政権下でした。消費増税と社会保障改革とを一体的に進める社会保障・税一体改革が議論される中で、民主党は、消費税が10%に引き上げられる段階での低所得者対策として、給付付き税額控除制度の導入を検討していました。これは、住民税を払っているかどうかといった大括りの基準ではなく、本人の所得が上昇するのに応じて満額の支給から完全支給停止まで小刻みに給付額を変化させる制度で、個人の所得の正確な把握が前提となります。社会保障と税の一体改革は、12年12月に新しく発足した第2次安倍内閣が引き継ぐことになり、給付付き税額控除制度に代わって必需品の消費税率を引き下げる軽減税率の制度が検討されることになりましたが、非正規労働者が増える中で、低所得者に対する給付制度が必要であることに変わりはありません。所得の低い人を支援する社会保障を実現するための制度としてマイナンバー制度は実現したのです。
マイナンバーで何ができるか
マイナンバーは「通知カード」に記載され、2015年10月より送付が始まります。16年1月より順次、次のような項目で利用が始まります。(1)社会保障関連:
年金の資格取得や確認・給付、医療保険の給付請求、福祉分野の給付、生活保護など社会保障の行政手続き(ただし、年金に関しては、日本年金機構の個人情報流出事件を受け、マイナンバーと結びつける作業は延期されることになった)
(2)税金関連:
税務当局に提出する申告書・届出書・調書など
(3)災害対策:
被災者生活再建支援金の支給や被災者台帳の作成事務など
また、希望者には、ICチップが組み込まれ、本人の顔写真が入った「個人番号カード」が、通知カードと引き換えに交付されるようになります。個人番号カードには、顔写真、氏名、住所、生年月日、性別、個人番号が記載され、ICチップには、券面記載事項のほか、電子申請のための電子証明書、市町村が条例で定めた事項などが記録されます。このカードを用いてe-Taxなど各種電子申請が行えるほか、自治体が条例で定めれば国民健康保険の保険証や図書館利用カードなどとしても使えるようになります。
さらに、17年1月から、自分専用の「マイナポータル」(情報提供等記録開示システム)がインターネット上で開設できるようになり、個人番号カードを用いてICカードリーダーで自分の情報を表示して確認したり、行政機関が自分の情報をいつなぜ取り寄せたかも調べられるようになります。また、一人一人に合った行政機関からのお知らせを表示することや、行政機関への手続きを一度で済ませる機能も持たせることができるようになります。
17年7月から、それぞれの行政機関が管理している個人情報が、マイナンバーにより相互に照会できるようになります。社会保障等の給付や負担免除の手続きが簡素化されるとともに、負担や給付が重複するのを防ぐことが可能になります。ここからが本格利用の開始であると言っていいでしょう。
それでも、マイナンバーで照会できる情報はまだ限られています。たとえば、所得に関する情報で言えば、給与やパートの賃金などは企業により番号を付して届けられますが、預金等の情報は金融機関から届けられず、所得の低い人にきめ細かい給付やサービスをするにはまだ不十分です。そのためには、預貯金の情報もマイナンバーで照会できるようにしなければなりませんが、税金の使い道について国に対する信頼が乏しい日本では、できるところからスタートし、マイナンバー制度への信頼度を高め、国民の理解を得つつ、利用範囲を広げていくことが重要です。
個人情報保護対策は万全か
2015年に日本年金機構で個人情報の流出が発覚し、日本年金機構のセキュリティー対策のお粗末さが露呈しました。この事件がもし、マイナンバー制度の導入後に起こっていたらどうなっていたでしょうか。マイナンバー制度は、マイナンバーに紐づけされた年金や税金などの個人情報をまとめてどこか一カ所で一元管理するわけではないので、芋づる式に他の情報まで流出するということはなさそうです。これまでどおり、年金の情報は日本年金機構、税金の情報は税務署など、各行政機関で分散して管理されます。行政機関間での情報の紹介や提供は、新たに設置された「情報提供ネットワークシステム」を通して行われます。情報提供ネットワークシステムは、情報を照会したい機関と提供する機関を仲介するコンピューターシステムです。ここでは直接、マイナンバーを使うのではなく、行政機関ごとに異なる符号(コード番号)を使って情報をやりとりします。さらに通信は暗号化されます。