50年ぶりの国産旅客機スタート
三菱重工業は2008年3月28日に、三菱リージョナルジェット(MRJ)について、事業化に乗り出すことを決定したと発表した。70~80席のMRJ70と、86~96席のMRJ90の2機種でファミリーを構成する、地域航空用の小型双発ジェット旅客機である。国産の旅客機開発はYS-11以来のものとなり、高い注目と期待を集めている。なお三菱重工業はこのMRJ事業を推進するために、専門の会社として「三菱航空機株式会社」を08年4月1日付で設立した。この新会社は、MRJの設計、型式証明の取得、調達、販売、カスタマー・サポートなどを担い、機体の実際の製造や飛行試験は、三菱重工業の名古屋航空宇宙システム製作所が行う。MRJの発端は、03年度に経済産業省が研究に着手することとした「環境適応型高性能航空機」計画である。この計画に対して企業各社が応募を行い、その中から三菱重工業の案が選定された。合わせて、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や富士重工業が作業に協力することとなった。当初この航空機は、有望な市場が見込めることから30~40席級のジェット旅客機とされていたが、その後の市場調査などで、もう少し大型の方がよいと判断された。そして05年度に70~90席級が最適とされ、さらに航空会社のニーズに細かく対応できるよう、70席級と90席級の2タイプで計画を進めることとなった。
MRJのビジョンとセールス・ポイント
MRJの開発に当たって三菱重工業は、次の二つのビジョンを掲げた。(1)最先端の幹線機技術を地域ジェット機に適用し、次世代地域ジェット機のスタンダードを創造する、(2)環境、乗客、航空会社に従来にない新しい価値を提供する、そして、乗客、環境、航空会社に対して、次のセールス・ポイントを持つ機体とすることにした。[乗客]
快適な客室=乗客志向の客室設計、新型スリムシートの装備。
[環境]
優れた燃費と低騒音=先進空力技術の使用、複合材料技術の適用、次世代エンジンの装備。
[航空会社]
優れた経済性=先進の空力技術を使用、次世代の操縦システムと操縦室の使用、複合材料技術の適用、次世代エンジンの装備。
客室の設計では、従来の地域航空機では実現できなかった広い空間と快適性を提供する。また座席を極めて薄型にするとともに、三次元ネットと呼ぶ新技術のカバーにより、足下などの空間を広げることにしている。また座席列上部には、このクラスでは最大級の手荷物棚が備えられる。
飛行操縦装置は、コンピューター制御のフライ・バイ・ワイヤで、操縦室には大画面のカラー液晶表示装置を使用して、パイロットが視覚的に理解しやすい表示画面を映し出すようにする。
複合材料の使用比率は、機体の構造重量比で約30%になる。ボーイングが開発中の787の約50%などに比べると少ないが、これは地域航空機の運航上の特性を考慮したためで、特に胴体は複合材料を使用せず、従来のアルミ合金で製造することにしている。主翼や尾翼、操縦翼面などはもちろん複合材料製だ。
エンジンには、アメリカのプラット&ホイットニー(P&W)が新たに開発する、ギアード・ターボファン(GTF)を装備する。メーカーのP&Wによればこのエンジンは、(1)現在のエンジンに比べて燃料消費を削減、(2)08年基準よりも窒素酸化物の排出が少なくなる、騒音の低下、(3)整備費用の低減、といった特徴を持つ新技術エンジンである。
MRJの開発費
MRJの開発費は、今のところ1800億円近くになるとされている。このうち500億円程度は経済産業省が予算化する予定で、それ以外は三菱航空機が中心になって負担することになる。また機体価格については、顧客航空会社のオプションにより変わってくるが、08年3月27日にMRJ90の購入決定を発表した全日本空輸によれば、15機の確定発注分のカタログ・ベース・プライスを概算で600億円程度としており、1機当たり40億円程度ということになる。この価格は、競合機種に対して十分な競争力があるものだ。加えて三菱航空機では、MRJの優れた信頼性と経済性が、運航期間を通じての経費を安上がりにするとしている。三菱航空機では、今後20年間の60~99席の地域ジェット旅客機に対する需要は、約5000機以上あると予測している。このうちの1000機程度を受注することが、当面の目標になると三菱重工業の佃社長は07年10月当時に語っていた。
MRJは、まずMRJ90開発作業が先行して行われる。今後の大まかなスケジュールは、09年に製造と組み立てを開始し、11年に初飛行、そして13年に型式証明を取得して、航空会社への納入を開始するとなっている。
YS-11
第二次大戦後、日本で初めて開発・製造された双発ターボプロップエンジンを使用した中型ジェット機。1962年に試作機を製作後、以降、72年までに180機以上が生産された。
幹線機技術
旅客需要の多い路線に使用する航空機に求められる独特な各種技術。
フライ・バイ・ワイヤ
(FBW fly-by-wire)
航空機の操縦翼面を動かすのに、パイロットによる操縦桿(かん)やペダルの操作の動きによる力を機械的に伝達するのではなく、操縦操作を電気信号化してコンピューターへの入力信号とし、コンピューターが最適な動きを算出して、出力信号に変換して操縦翼面を作動させる操縦システム。
ギアード・ターボファン
(GTF geared turbofan)
エンジン前面のファンと低圧タービンの間に減速ギアを組み込んで、低圧軸を高速で回転させる一方、ファンの回転を低速化させることで低燃費や低騒音を実現できる仕組みのターボファン・エンジン。