外来生物とはなにか?
外来生物(alien species)とは、人の手によって本来の生息地から、異なる生息地に移送された生物をさす。人為的要因によらず、気流や海流に乗って移動する昆虫やエチゼンクラゲ、あるいは自力で海や大陸を渡る鳥類などは、外来生物にあてはまらない。また、外来生物は外国産の生物種というイメージが強いが、国内の特定地域に生息する生物を、国内の別の場所に移送させた場合も、外来生物の定義にあてはまる。例えば沖縄の生物を、北海道に移動させた場合などがそれにあたる。
生物の種や個体群の生息地には地理的区分がある。生物地理境界線という区分境界線を越えることが外来生物の定義であり、人間社会が人為的に定めた国境線は重要ではない。
侵略的外来生物が繁栄する理由
多くの外来生物は移送先の環境になじめず定着できないが、一部に新天地の環境に適応し、本来の生息地よりも繁栄して、在来の生物相や生態系に悪影響を及ぼすものが存在する。こうした外来生物を侵略的外来生物(invasive alien species)と呼ぶ。外来生物が侵略的になる生態学的メカニズムとしては、本来の生息地では生息ニッチェ(habitat niche 巣場所や餌資源量など生息に必要な要素)が競争種などの存在により限られており、さらに天敵が存在することでその個体数が制限されていたのが、新天地ではそうした制限から解放されることで爆発的に増加して、在来生物を圧倒するためと考えられる。
また、移送過程や侵入過程で、侵入集団がもともとの集団とは異なる遺伝子組成を構成することにより、新天地において特異的な適応パフォーマンスを示す場合もあると考えられる。
侵略を受ける在来生物
さらに侵略を受ける側の在来生物についても、その進化過程でそれまで出会ったことのない新しい生態特性を持つ外来生物の侵入に対して、対抗措置を備えていないために被害を受けることになる。特に、種数が限定され、生態系が単純な島の個体群は外来生物の侵入に対して脆弱となる。例えば、沖縄本島および奄美大島では、ハブ退治目的に1919年に導入された東南アジア原産のジャワマングースが繁殖して、ヤンバルクイナやアマミノクロウサギなどの島の固有種を補食してその存続を脅かしているが、これは、沖縄諸島の生物進化の歴史の中でマングースのような機敏で獰猛な肉食性哺乳類が存在しないため、そこに生息する在来生物はマングースの捕食から身を守る手だてをもともと進化させておらず、簡単に捕食されてしまうことになる。
グローバリゼーションは外来生物ももたらす
外来生物を生み出す最大の要素は、人とモノの移送であり、上に挙げた生物学的要素に加えて、社会・経済的要素が大きく影響する。特に近年の経済グローバリゼーションの加速により、外来生物の侵入確率はさらに高まると考えられる。南アメリカ原産のヒアリは、強い刺傷毒をもつアリで、人の健康にも悪影響を及ぼす深刻な外来生物であるが、21世紀に入ってからわずか数年で急速に環太平洋諸国に分布を拡大している。1930年に北アメリカへの侵入が確認されて以降、他地域への侵入が確認されていなかった本種が、海を越えてアジアにまで進出してきた背景には、貿易ルートと輸送量の拡大があると考えられる。
安易な輸入と飼育放棄で生まれる外来生物
また、人とモノの自由な移送は、同時に安易なペット・産業生物の意図的な導入にも拍車をかける。かつて日本ではハブ退治目的で導入したマングース、食用で放飼されたオオクチバス、アニメの影響でペットとして輸入されたアライグマなど、人間の都合で持ち込まれた外来生物が深刻な生態影響をもたらしたという苦い経験が数多くあるにもかかわらず、日本人の外来生物を好んで輸入するという習性は現在でも変わることなく、多くの生きた動植物を輸入し続けている。
特に21世紀に入ってからの自由貿易の拡大で、その数は飛躍的に増大している。輸入された生物の管理が徹底されず、カミツキガメのように飼いきれなくなった個体が放逐され、野生化して侵略的外来生物と化すケースが後を絶たない。
侵略的外来生物は「多様性と固有性の喪失」の象徴
経済開発は外来生物を受け入れやすい環境も生み出している。農耕地や宅地の拡大などの環境改変は、在来生物の生息地を分断化し、生態系システムを撹乱(かくらん)する。人為的撹乱環境が拡大して、在来生物が衰退する中、生態系の隙間を埋める形で、外来生物が定着して分布を拡大することとなる。日本各地、さらには世界各地における環境の均一化が単一優占種としての外来生物の蔓延(まんえん)を促している。今、人間にとって、世界は狭く、地球は小さくなりつつある。世界中のネットワーク化により、生態系や生物相だけでなく、社会、経済、文化までもが「外国産」の影響を受け始め、国や地域の独自性・固有性が急速に喪失し始めている。
多様性や固有性はシステムの柔軟性を維持する上で極めて重要な要素となる。多様性や固有性を失ったシステムが簡単に崩壊することは、リーマンショック(2008年9月)によって世界経済が急降下した状況をみても、容易に理解できるのではないだろうか?
侵略的外来生物は、世界の多様性と固有性の喪失を象徴する生物種なのである。
ヒアリ(red imported fire ant)
在来種を駆逐するほどの高い競争力をもつアリで、草地など比較的開けた場所を生活環境として好み、雑食性で節足動物、トカゲなどの小型脊椎動物、甘露、樹液、花蜜、種子などを餌とする。北アメリカでは1930年ごろに侵入が確認され、船荷にともなって持ち込まれたと考えられる。近年、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、台湾、中国南部など環太平洋諸国に急速に分布を拡大しており、日本への侵入も時間の問題とされる。刺されると、重篤な症状に陥ることもあり、外来生物法の特定外来生物に指定されている。