従来の退役機の航空用へのリサイクル率は0%
航空機はよく「鉄のかたまり」などと比喩されるが、実際にはアルミ合金が主要な素材である。エアバス社の最新鋭機である総2階建ての超大型機A380の場合、重量比で機体構造全体の61%がアルミ合金で作られている。その他の素材としては、複合材料が22%、チタニウムと鋼鉄が10%、グレア(アルミと複合材料の積層素材)が3%、表面コーティング剤が2%、その他が2%となっている。また航空機の場合、これにエンジンが加わり、エンジンはほとんどが鋼鉄系の素材でできているので、それも含めると鋼鉄素材の比率が増加する。
退役した旅客機はその後どうなるのかというと、自動車などと同じで、まずスクラップ分解されて比較的小さな塊りにされ、金属として再利用されている。ただ、航空機に使われているアルミは、ジュラルミンとも呼ばれる特殊な素材で高価なものだが、そうした用途にはリサイクルされてはいない。
ボーイング社の分析では、廃棄処分となった航空機の素材のその後の使い方は、約50%が低品質の産業用再生金属として再生される比率が最も高く、その次が埋め立てなどに使われている(35%)。産業用高品質再生金属となっているのは約15%だが、航空宇宙用としてリサイクルされているのは0%だという。
航空機のリサイクルとエアバス社のプログラム
しかし、今後は今まで以上に退役機の数が増えることから、それらの素材の高度なリサイクルがこれからの課題になっている。大手旅客機メーカーであるエアバスとボーイングは、それぞれ独自にその対策への取り組みを開始している。エアバスではPAMELAと呼ぶプログラムで、実際に退役した旅客機を使ってリサイクルの研究を行ったし、ボーイングもAFRAという組織を作って研究を進めている。それらについて、簡単に紹介しておきたい。
エアバスのPAMELAとは、「寿命を終えた航空機の先進管理のための処理」の頭文字を組み合わせたもので、航空機を効果的にリサイクルする技術を確認・実証しするというプロジェクトである。このためエアバスは、用途廃止となったA300B4を実際に解体して、どのようにリサイクルできるのかの実証作業を行った。
PAMELAのリサイクルの実証作業
PAMELAは、三つの段階に分けて作業を行うこととした。第1段階は廃棄に向けた作業で、機体の清掃や残っている燃料・油・水などの抜き取りである。仮にこの段階で機体にまだ耐空性があり使用を続けられると判断され、それが法律の基準を満たしていれば、機体は廃棄されずに購入希望者に売却することもできる。第2段階は、器材や部品の取り外しで、エンジンや電子機器、タイヤなどを外す。ここでも、外した器材や部品がまだ使用に耐え、かつ法律の基準を満たしていれば、それは必要な整備作業などを受けて、そのままの形で別の航空機に装備されて使われ続けることになる。
最後の第3段階が完全な機体の解体で、有害物などの取り除き作業を行い、また機体自体を分解して素材ごとに分別する。その中で再利用が可能なものについては、再生業者などに送り出すのである。
解体、分解される航空機
実際にA300B4でこの作業を行った結果は、次のようなものだった。まず作業着手時の機体の重量は10万6000kgあり、そこから第1段階の作業を行った結果1万8000kgの燃料などを抜き取ることができ、それを差し引いた8万8000kgがリサイクルの対象重量となった。
第2段階の作業では、エンジン(2基とも)、補助動力装置1基、降着装置(3脚とも)、一部の電子機器や装備品など、計1万3500kgがまだ使用に耐えられ、また基準を満たすとして、他の航空機用部品として再利用されることとなった。そして第3段階では、胴体や主翼、尾翼はもちろん、配線やパイプなどのシステム用素材など計6万1000kgが再生使用可能とされた。
この結果、リサイクルできたものの合計重量は7万4500kgと、対象重量の85%を占めることとなったのである。残る15%の1万3500kgは、客室や貨物室の内装素材など現在の技術では再利用できないものや、無価値なものなどで、これは純然たる「ゴミ」となった。こうしたことから、エアバスでは機体重量の70%以上は確実にリサイクルが可能だとしている。、、
ボーイング社のAFRAプログラム
一方ボーイングは、AFRA(航空機フリート・リサイクル協会)を設立し、チームリーダーとなって航空機のリサイクルに関する研究を進めている。メンバーは、航空宇宙企業だけではなく、業種の垣根を越えて集まっており、それぞれの分野で作業に協力している。そのボーイングが目指している将来の航空機のリサイクルによる再利用比率は、半分を占めていた低品質の産業用再生金属を15%にまで下げ、また埋め立てなどの比率もわずか5%にするというもの。その一方で、産業用高品質再生金属として45%を再生し、またこれまでは全く利用されていない産業用エネルギー源としても、25%使用できるようにして、航空宇宙製品にも10%を再利用するというものである。ただこれを実現するには、まだ分別方式の確立や再生技術の向上などといった課題も残されているが、着実に前進を続けることを目指している。
このように金属素材については、リサイクルのめどがある程度は立っている。今後は、新素材として使用比率が高まっている複合材料についても、リサイクル技術を確立する作業が進められることになっている。
注1
地域ジェット旅客機を除く100席以上の旅客機とその貨物型のことで、この稿では特記がない限りこのカテゴリーを指す。
PAMELA
(Process for Advanced Management of End of Life of Aircraft)
AFRA
(Aircraft Fleet Recycling Association)