キンドルとiPadが牽引する電子書籍端末ブームの到来
電子書籍(eBookもしくはeブック)とは、書籍や雑誌、新聞などのコンテンツをデジタル化したもので、電子書籍専用の読書端末は電子書籍端末(電子読書端末)あるいは電子書籍リーダー(eリーダー)と呼ばれている。日本ではコミックを中心に携帯電話向け配信が電子書籍市場の中心であるのに対し、アメリカでは電子書籍端末が市場を牽引している。2006年に発売されたソニーリーダーが市場を開拓し、07年11月に発売されたアマゾンのキンドル(Kindle)がブームに火をつけた。正式な発表はないが、キンドルの累計販売台数は300万台以上といわれている。
キンドルが成功した理由としては、電子書籍に初めからベストセラーをそろえたことと、電子書籍の価格を印刷書籍より安く設定したことが指摘されている。また、3G(第3世代携帯電話)の通信機能を搭載したことで、いつでもどこでも電子書籍の購入が可能であり、スペック上は1500冊もの本を持ち運ぶことができる。一方、書籍の販売サイドとしては、電子書籍はデータをサーバーに置いておくだけなので、印刷書籍と異なって原則的に品切れをなくすことができる。
市場が白熱化するなかで、アップルの携帯端末iPadが短期間で爆発的な売れ行きを示している。アップルの発表によると、10年4月3日の発売初日に30万台以上が販売され、電子書籍はiPad経由だけで25万冊以上も売れたという。
ただし、日本で電子書籍端末が発売されたとして、アメリカのように売れるとは限らないだろう。アメリカと日本では本に対する愛着に彼我の差がある。アメリカ人にとって読書は消費行為に近く、休暇に何冊もの本を持って行き、読み終われば捨てて帰ることもいとわない。日本人は本を捨てることに抵抗感があり、それが新古書店へ本を持ち込むモチベーションになっている。現状の電子書籍市場規模は日本の方が大きいが、その売れ筋には両国で明らかな傾向の違いがある。
日米における電子書籍市場の現状
インプレスR&Dの調査によると、2008年度の日本の電子書籍市場規模は464億円であり、09年度は520億円程度と推定される。いくぶん伸びが鈍化したとはいえ、電子書籍端末が発売前であり、出版市場が09年度が2兆円割れと縮小するなかで、2.5%を占め、今後も成長が期待できる分野である。市場を牽引してきたのは携帯電話向けの電子書籍であり、08年度では402億円となっている。一頃の勢いはなくなったとはいえ、年間3000万台を販売する携帯電話は、コンテンツ市場の巨大なプラットフォームとなっている。電車内などのモバイル環境に適しコンテンツ購入も容易なことから、音楽、ゲームとともにコミックが好調である。携帯電話向け電子書籍約8万点のおよそ半分をコミックが占めている。また、一頃のケータイ小説ブームは、若者を中心に小さなディスプレーで文字を読むことを習慣化させたとも言えよう。
一方、アメリカの電子書籍市場は、日本ほどには大きくはない。アメリカ出版社協会(AAP)は10年4月7日、09年のアメリカにおける電子書籍市場を3億1300万ドル(約290億円)と発表した。電子書籍が占める割合は、まだ書籍市場全体の1%強にすぎないが、市場全体が景気減退の影響で減少するなかで、前年度比で実に2.8倍と急成長をしている。特徴的なのは端末が市場を牽引したことで、文芸作品を始め、広範囲な分野の電子書籍が販売されていることである。中心読者は、本好きの中高年であり、この点も日本との違いである。
電子書籍端末の動向とコンテンツの今後
iPadは電子書籍端末ではなく、電子書籍も読めるタブレット型PCである。カラー液晶表示でゲームや動画表示に適しており、文字中心の書籍よりも、マルチメディア化したデジタル雑誌やコミックに向いている。その際、見せ方にも工夫する必要があるだろう。勢い制作コストは高くならざるを得ない。競争相手は、出版社同士ではなく、テレビや映画スタジオなどの伝統的メディアから、ゲームやアニメ、さらにITベンチャーなど多岐にわたっている。市場規模が大きくメディア産業として発展が期待されるが、それだけに従来の事業にこだわらない戦略や投資、さらに音楽や映像、技術に長けた新しい人材が求められることになる。また、世界でもっとも英語教材が販売される日本では、音声付きの英語教材の電子化や教科書のeラーニング化が期待される。iPadに向くコンテンツが電子書籍市場の拡大に果たす役割は大きい。
一方、キンドルは白黒表示の電子ペーパーを搭載するなど、徹底的に書籍を読むことにこだわって設計されている。スケジューラーも電卓もついていない。雑誌も新聞もローコストのまま文字中心の再生である。電子読書端末での読者は、書籍の検索、購入から入手まで、短時間でシームレスな操作性を求めている。いつでもどこでも購入し、本を読むように電子書籍が読めることが優先される。
コンテンツに本との違いを求めないのだから、電子書籍化しても特別にマルチメディア化する必要はない。そこで出版社はワークフローを見直し、書籍や雑誌を作る過程で副産物として電子書籍ができるようにして、作品数を増やしていくことになるだろう。
eラーニング
(e-learning)
インターネットなど情報通信技術を使った教育や研修方法のこと。eはelectronicを指す。