そもそもホメオパシーとは、植物や動物、鉱物などを極端に希釈した水を染み込ませた「レメディー」と呼ばれる砂糖玉を飲んで治療を行う、いわゆる代替療法だ。副作用がない自然に近い療法ということで世界的に人気があり、イギリス王室のメンバーや世界的に名高いアーティストなどにもファンがいるとされる。日本でも、作家やミュージシャンが体験記を発表するなどして、次第に愛好者が増えている。また、最初に提唱したのがドイツ人医師であったせいか、医師のあいだでもこれを積極的に治療に取り入れている人がいるのが、ほかの民間療法とは違うところだ。最近では養成学校までが作られており、なかなかの人気らしい。
ところが、最近になって、このホメオパシーだけを受け、いわゆる西洋医学的な治療をされなかった人の中に、死亡したり症状が悪化したりした事例があることが明るみに出た。そしてついに、頭蓋内出血防止に有効なビタミンK2シロップを与えられず、ホメオパシー療法だけを受けた乳児が死亡、親と治療を行った助産師とのあいだで訴訟問題に発展した。
こういった事態を受けて、科学者たちで作る日本学術会議は、今年(2010年)8月24日、「治療効果は科学的に明確に否定されている。効果があると称して治療に使用することは厳に慎むべきだ」とする会長談話を発表した。また、医師が中心の日本医師会、日本医学会も、それに賛同する声明を出した。
たしかに、「水を染みこませた砂糖玉」を使う治療は、学術会議の談話にあるように「科学的根拠がなく荒唐無稽」としか言いようがない。しかし、だとすればホメオパシーを好むのは、「科学的に無知で判断力のない人たち」と言ってよいのだろうか。
それもまた違うと思う。彼らの多くは、西洋医学やいまの医療に対して失望、絶望して、ホメオパシーに頼ることになったのだ。診察室にいると、他の医療機関で嫌な思いをした、不安がつのるばかりだった、という人たちの声を聞く機会も多い。「病気ばかり見て人間を見てくれない」「検査や副作用の説明が不十分、質問したら専門用語で返された」「余命2カ月など機械的に言いわたされた」などと語る彼らの多くは、“そのままの自分”をやさしく受容し、希望を与えてくれる民間療法にすがろうとするのだ。「遠隔地から“気”を送ってくれる先生にお願いするつもり」「ガンが消えるというキノコをもらったので、抗ガン剤はやめました」など、どう考えても効果や根拠があるとは思えない療法に高いお金を払おうとする人も少なくないが、いまの医学への不信を聞かされた後では、とても頭ごなしに彼らの選択を否定することはできない。
医学、科学の側も、そういった事情をよく理解するべきだろう。ここで、ただ「ホメオパシーは科学的根拠がない」などと正面から批判するだけでは、わらにもすがる思いの人たちを救うことにはならない。「なぜ根拠も乏しい療法に人は殺到するのか」とホメオパシー人気の高まりの理由を考え、そのウラにある医療への不信をきちんと受け止めるべきだ。そして、自分たちも反省すべき点は反省し、改善すべき点は改善する謙虚さが、医学の側にも必要なのではないか。そして、まず自分たちが変わることができれば、おのずと「手術だけは受けたくない」「薬? あんな恐ろしいものはごめんだ」と医療を拒否する人も減るのではないだろうか。一方的にホメオパシーを糾弾する姿勢こそが、まさに“医療離れ”を招いている。私はそう思うのだ。