次々誕生する「位置情報」活用サービス
スマートフォンなどの携帯端末で得られる「位置情報」を用いたアプリケーションソフト(アプリ)が流行している。たとえば、現実空間にある様々な店舗や施設に実際に足を運び、インターネットの地図上で訪問履歴や口コミを共有するフォースクエア(foursquare)をはじめ、食べものの写真やレストランの情報を共有して交流するミイル(miil)など、新たなサービスが続々出現してきている。すでにフェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアでも同様のサービスはあるし、あちこちで百花繚乱(りょうらん)である。このような、携帯端末による位置情報を利用したサービスを、LBS(Location-Based Service)という。LBSが台頭した背景にあるのは、言うまでもなく、スマートフォンの爆発的な普及と、ソーシャルネットワークの興隆だ。いずれも今後さらに普及が進むと考えられることから、LBSはますます私たちの身近なものとなっていくだろう。
まず、企業の側からしてみれば、いろいろなメリットがある。単純にネットや街頭でチラシをまくのに比べ、実際に店舗・施設の近くにいる人だけをターゲットにできるので効率的だ。また、前述したフォースクエアやミイルのように、「足を運ぶ」という“手間”を“楽しみ”に変えることができれば、ロイヤリティーやブランドの強化も期待できる。
一方、利用者側にも一定の便益がある。自分の居場所の近くにあるお店から“お得”な情報が届くのは魅力的だし、ソーシャルネットワークの特性を生かして、近くにいる友人や仲間と即興で集まることもできるようになった。
社会基盤としても欠かせなくなったLBS
LBSの台頭には、当たり前だが位置情報を測位する技術の普及が大きい。スマートフォンを含め、現在市場に出回っている携帯端末の多くは、すでにGPS(全地球測位システム)機能が搭載されている。最近では測位精度も向上したことから、「カーナビ代わりにスマホでナビ」というケースも見られる。位置情報を測位する手段はGPSだけではない。無線LAN通信のWi-Fiを使った測位もあれば、ケータイの電波を中継する基地局情報を用いたものもある。こうした様々な測位技術が、複合的かつ簡単に利用できるのは、技術革新はもちろん、情報基盤として「グーグルマップ」のような地図情報サービスが広まったことによる。
そして、今やこれらは単に「楽しむ」ためだけのものではない。防災等の観点からすれば、重要な社会インフラでもある。東日本大震災発生時、道路の通行可否の状況をインターネットの地図上で共有するという試みがいくつか立ち上がったが、これもGPS、通信手段、地図情報の普及がうまくかみ合った結果である。
位置情報を他人に知られる危険性
このように、LBSは優れた技術であり、また便利なサービスでもある。しかしそれゆえに、悪用することもできる。こうした技術やサービスにはどうしてもつきまとう「両刃の剣」という側面が、LBSにもやはり存在する。位置情報は、(1)現在の場所、(2)移動の履歴、(3)店舗や施設の場所、という大きく3つに分類される。これが組み合わさると、非常に強力な情報となる。その強力さが便益の方向を向けば、前述のような「楽しみ」や「サービスの向上」につながるのだが、悪意の方を向くと、プライバシー侵害やそれに伴う事故という残念な一面が顕在化する。
たとえば、(2)移動の履歴。これを1~2週間ずっと眺めていれば、ある人の平日の日中の居場所(多くは職場や学校など)、また夜以降や週末の居場所(自宅など)が、おおむね推定される。それらの「居場所の傾向」を時間帯や特徴で把握し、かつ(1)現在の居場所と組み合わせれば、空き巣狙いの窃盗犯にとってはこの上ない情報となるだろう。
また、こうした情報を複数重ね合わせれば、人間関係や業務上の機密さえも見通すことができる。たとえば(3)店舗や施設の場所を軸にして、ある決まった時間帯(平日夕方など)に一緒に行動しやすい集団がいれば、友達や恋人同士と推測できるだろう。またその対象がビジネスマンだとしたら、行き先まで詳細に追いかけることで、取引先の推定やその関係性を予想することまで可能となる。
他にも、スマートフォンには撮影した画像に「位置情報」を埋め込む機能があるが、この機能をオンにしたまま自宅で写真を撮ってネット上に公開すれば、第三者に住所を知られてしまうといった危険性もある。便利さや楽しさは、常にリスクと表裏一体であるということだ。
LBSを安全に使うための心構え
では、こうした問題を回避し、LBSを安全に楽しく使うためには、どうすればいいのか。実はこれがなかなか難しい。残念ながら、法制度等による市民保護に向けた対策も、十分ではない。また、技術的な対策も含め、「こうすれば万全です!」という方策が、なかなか見当たらない。というのも、ソーシャルネットワークを前提としたLBSの場合、情報は「誰かが取っている」よりも先に、「利用者が自分から出している」からだ。そして自分から情報を出している以上、出した側にも責任の一端が生じるということになる。
それを踏まえた上で、まず「むやみに位置情報を出さない」ということが、対策を講じる上での初手となる。たとえば、スマートフォンの基本設定等で(制御できるようであれば)GPS機能をオフにしておき、位置情報サービスを利用したいときにはそのつどオンにするとか、そういったモードの切り替えをこまめに行うということだ。
スマートフォンのカメラも位置情報を保存しない設定にする、画像をネットにアップするときは位置情報を削除するアプリを使うなどの自衛策が必要になる。
そして「便利そうだから」とリリースされたばかりのアプリをすぐにインストールしない、ということも重要だ。これはLBSに限った話ではないが、スマートフォンの普及が爆発していることに伴い、端末内に蓄積された個人情報を勝手に盗み出していくような、悪意をもった怪しいアプリの台頭も日々続いている。一度手を出すと、個人情報はおろか、電話帳等の人間関係に関するデータも漏洩(ろうえい)しかねない。
こうした状況はパソコンやブロードバンドの普及期と同じかそれ以上で、残念ながら当面は沈静化しないと考えるべきだろう。その意味で、周囲の多くが使っていて評価が定まっている(問題ないと評価されている)アプリを冷静に選んで使う、というのが完璧な答えではないものの、現時点での妥当な判断となる。