「すごい時間割」誕生秘話
僕が「すごい時間割」を開発した直接のきっかけは、同じ大学の学生が大学のシラバスを閲覧するアプリを作ったと聞いたことです。しかし講義案内だけだと1週間もすれば使わなくなる。そこで時間割に目をつけました。友人と時間割を共有する、あるいは履修選びの参考にする、そんなアプリはどうかと考えたのです。こうしたひらめきというのは、新しいものを作る上でとても大切なことだと思っています。子どもの頃は体が弱く、何度も入退院を繰り返していました。小さな世界に閉じこもっていたときに、インターネットに触れて、自分の世界が一気に広がりました。両親は普通のサラリーマンと専業主婦で、ITとは全く縁がなかったのですが、これからの時代はパソコンが必要だと言って、買い与えてくれたのです。
中学生になって、当時周りではやっていたカードゲームの情報サイトを立ち上げたところ、毎日10万人くらいの人たちが閲覧してくれるサイトにまでなりました。そこからですね。人が集まる場所を提供すること、多くの人に使ってもらえるサービスを作ることに興味を覚えたのは。だから「すごい時間割」の原点は、その頃までさかのぼるとも言えます。
アルファ版から手応えが
原型となるアプリは、2011年4月に、自分や友人が在籍する4大学でアルファ版として作成しました。これは一人で制作したものです。初日で500人の登録があり、手応えを感じました。同時期に、個人では限界があるので、4人のメンバーと株式会社Labit(ラビット)を設立しました。法人がこうしたサービスを提供する場合には、セキュリティーや管理をかなり厳しくしなければなりません。そうした面にも配慮して、大学の後期授業開始に向けて、さらなる開発を進めました。5月、アプリのネーミングをどうするかという議論になりました。英文のかっこいい名前にしたいなど、いろいろな案が浮上しました。最終的には、エンジニアが開発中に適当に付けたフォルダーの名前「すごい時間割」をそのまま使うことにしました。一度聞いたら忘れないし親近感もある、検索もしやすく、良い選択だったと思います。
そして、その年の10月に正式にサービスをスタート、100大学に対応し、ユーザー数も約1万人にのぼりました。さらに1カ月後には、登録授業数を268大学、約5万7000件まで増やし、ユーザー数も最終的には約2万人になりました。こうした過程の中で、アプリを開発する上で重要なのは、いかにシンプルに、洗練されたものを、クールに作るかということだと分かり、とても勉強になりました。
「空きコマチェッカー」というコンテンツは、実際に大学に通う中で、ある日ふっと降りて来たアイデアです。自分が現役の大学生という利点を生かせたアイデアでした。ユーザーの皆さんにも、友人同士で空き時間を共有でき、キャンパスライフがさらに楽しいものになったと好評でした。
翌12年4月には、登録授業数770大学、約18万件、ユーザー数も約4万人とさらに数字が伸びました。
最新バージョンのユーザー数は10日間で約7万500人に
僕にはアプリに対する設計思想があります。それは「一人でも使え、みんなで使うと楽しくなるアプリ」「作りながら考える」「自分たちが本当に欲しいと思うものを作る」の3つ。「すごい時間割」もそれに沿ってできたアプリです。9月24日にサービスを開始した最新バージョンでは、履修者同士がよりコミュニケーションできるような機能を提供しています。登録授業数は981大学、約35万件です。サービス開始から10日間で、ユーザー数は約7万5000人で、毎日700~1000人増え続けています。
1年前の5倍ものユーザーが使ってくれていることは、うれしい限りです。これはサービス内容のユニークさもさることながら、苦情やバグへの対応を地道に行って来た結果と自負しています。
現在は社員が5人、他に数人が手伝ってくれています。僕にとって、アプリの開発や事務的な対応をする上で、とてもやりやすいサイズです。自分以外の人間と一緒に作り上げるという経験は、会社を設立してからのことで、時間の経過とともに理想的なチームになってきたと感じています。僕の描いた100のものを120まで引き上げて提案してくれたり、それにまた自分の考えを乗せたり……。昔、バンドを組んでいたことがあるのですが、まさに音楽のセッションをするように仕事をしているというイメージです。
今後の展開
「すごい時間割」に関しては、ユーザーの声を聞きつつ、もっと使いやすいもの、価値あるものにしていくつもりです。さらに、もう1つ、会社の軸となるアプリが欲しいと考えています。ここ1、2年でIT業界は大きな変化を遂げています。たとえばソーシャル系のサービスへの参入がしやすくなりました。個人で作ったサービスの可能性が広がり、若い人が夢を見やすくなったとも言えます。そのぶん競合相手も増えることになります。生き残るためには、常に変化し続けないといけません。
今はゲーム関係がシェアの多くを占めています。同じ業界に身を置くものとして、ゲーム制作に異を唱える気はありません。データ分析のノウハウなど、学ぶ点も多くあります。ただ、自分の会社では作らない方針です。
では何を目指しているかというと、政治や経済などの仕組みでは解決できない問題、あるいは対応が遅い部分を、事業家として解決していきたいと考えています。最近、言葉が定着しつつある社会起業家的な発想ですね。たとえば「すごい時間割」でも、講義内容に対するコメントが書き込まれて可視化されれば、先生方がよりよい講義を目指すのではないでしょうか。それは教育の改革につながるかもしれない。
アプリで社会を変える。そんなの無謀だと言われるかもしれませんが、影響力はすでにあると思っています。次のトレンドに向け、Labitはすでに始動しています。