人気No.1女性アスリート
2007年のゴールデンウィーク。東京・台場の一角が、異様な熱気に満ちていた。ビーチバレーだ。
ジャパンツアー第2戦東京大会。多くのファンの視線は、1人の選手に注がれていた。浅尾美和、21歳。西堀健実とのペアで戦う試合は、驚くほどの台数のカメラが取り囲み、会場に入りきれないファンは、懸命に浅尾の姿が見える場所を探した。前年からジワジワ上がってきた人気が、ここにきて一気に爆発した。グラビアアイドルもこなすキュートなルックスは、いまや人気No.1の女性アスリートとも呼ばれる。
その競技の中で、特定の選手が突出してメディアに取り上げられる例は、ほかにもある。たとえば卓球の福原愛。世界ランクでは日本人No.1だ。柔道では谷亮子。もう10年以上も世界女王の座に君臨する。最近のバドミントンなら「オグシオ」こと小椋久美子・潮田玲子組。ダブルスでは国内敵なしだ。
「マイナー」と呼ばれてしまう競技では、まず日本のトップにいることが人気獲得の最低条件。だが浅尾は違う。日本一を争ってはいるが、一番ではない。この事実が、逆に彼女の魅力を物語る部分でもある。
浅尾は三重県立津商業高校を卒業後、ビーチバレーに本格的に取り組んだ。スカウトした関係者は、始めからそのルックスに目をつけていたという。ビーチバレーの競技環境は特殊だ。会場は砂浜。競技用ウエアは水着。しかも女子はセパレーツ(ビキニ)が義務づけられている。水泳と違って水にも入らず、試合中は全身をさらけ出したまま。アイドル並の容姿があれば、男性ファンが激増すること請け合いのスポーツなのだ。
浅尾はある種、使命を帯びたかのように、競技以外のグラビア、写真集、テレビ出演など「芸能活動」を積極的に行い、スポーツ界を超えた人気を獲得。ビーチにファンを呼び寄せる結果となったのは、本人も周囲もけっして「予想外」ではないだろう。
36歳佐伯の挑戦
かつて浅尾の役目は、佐伯美香が担っていた。1997年、25歳でインドアのエースからビーチに転向し、ルックスと実力を兼ね備えたスター選手として競技を引っ張った。実力No.1の高橋有紀子とペアを結成。チームの「顔」は佐伯だが、コート上のリーダーは高橋。絶妙のバランスで世界トップクラスにのし上がり、2000年のシドニー・オリンピック(五輪)では4位という日本史上最高位を獲得した。その佐伯も五輪後に結婚し、一時引退。出産を経て、02年に「ママさん選手」として現役復帰した。体を絞り、ブランクを取り戻してからの活躍は、さすが世界を知る選手というべきか。06年、パートナーをアテネ五輪代表だった楠原千秋に決め、ワールドツアーに参戦。36歳での北京五輪出場を狙う。
この2組に加え、06年の日本最強ペアである田中姿子・小泉栄子組。そして元インドア日本代表の鈴木洋美と浦田聖子組。07年8月23日開幕の第21回ビーチバレージャパン& MasterCardマーメイドカップで、全ペアが顔をそろえる。
男子も五輪出場に期待
女子ばかりが注目されるビーチバレーだが、実は男子の方が今季の最高成績は上だ。朝日健太郎、白鳥勝浩組が07年7月のワールドツアー・フランス大会で日本人選手として18年ぶりに4位となった。過去2大会、日本男子は五輪出場権を獲得していない。3大会ぶりの出場に大きな期待が掛かる。五輪出場権は2年間のワールドツアー全30大会の獲得ポイントで決まる。北京五輪の場合、07~08年の対象大会の中で、上位8大会のポイントを加算した順位で決定する。本場ブラジルやアメリカはもちろん強いが、ドイツ、ノルウェーといった欧州勢も複数ペアを上位に送り込み、さらに開催国の中国が急成長している。競技の国際普及は着実に進んでいると言えるだろう。
かつて高橋有紀子に聞いたことがある。「ずっと水着で恥ずかしくないですか?」。答は「ああ、それは日本人的な考え方ですね」。ビーチバレーの世界では、あり得ない発想らしい。開放的なスピリットが、競技の大前提にある。浅尾を見るもよし。浅尾以外もよし。一度あの雰囲気を味わってしまうと、またビーチに足を運びたくなる。