ハイテク駆使した長居スタジアム
第11回IAAF世界陸上競技選手権大阪大会(通称:IAAF世界陸上2007大阪)は07年8月25日から9月2日までの9日間、大阪市の長居陸上競技場で開催される。大阪特有の酷暑は難敵だが、ハイテク技術を駆使した日本製トラックが舞台になり、短距離種目を中心に世界新の期待も膨らむ。世界陸上競技選手権は1983年にヘルシンキ(フィンランド)で第1回大会が開かれ、第3回の91年東京大会までは4年ごとに、以降は2年ごとに開催されている。さて、今大会の見どころは。“世界最速争い”パウエルVSゲイ
大会第2日、世界最速を決める男子100mでは、9秒77の世界記録で3度走っているアサファ・パウエル(ジャマイカ)と、今季向かい風で9秒84をマークしている24歳のタイソン・ゲイ(アメリカ)のビッグ対決が実現する。世界新を予感させる2人の勝負は、スタート技術が向上し、持ち前のスピード維持能力にも磨きがかかったゲイが優位だ。大舞台ではこれまで故障に泣かされて実績がないパウエルは真価を問われる。過去3度準決勝に進出している35歳の朝原宣治(大阪ガス)と、アジア大会銀メダルの若い塚原直貴(東海大)は2次予選突破がテーマとなる。19秒台が3人そろう男子200mもスリリングだ。2007年6月に世界歴代2位の19秒62をマークしたゲイがやはり一番手で、前回銀メダルのウォレス・スピアモン(アメリカ)とユーザイン・ボルト(ジャマイカ)らが競り合えば、19秒32の世界記録更新も射程内だ。前々回銅メダルの末続慎吾(ミズノ)は、決勝に残ってアジア初の20秒突破を果たしたい。
美しき鳥人たちの舞
大会随一の華麗な競演になるのが女子走り高跳び。優勝候補の筆頭は192cmの長身、ブランカ・ブラシッチ(クロアチア)だ。世界歴代2位タイの2m07を最高に、今季大半の試合で2mの大台を越えて絶好調。「跳ぶのが楽しくて仕方ない」という伸び盛りの23歳が、20年間破られていない世界記録2m10の更新を目指す。今季は分が悪い前回女王のカイサ・ベルクビスト(スウェーデン)は、2m08の室内世界記録保持者としても負けられない。アテネ五輪優勝のエレーナ・スルサレンコ(ロシア)も大舞台では強い。女王エレーナ・イシンバエワ(ロシア)にアメリカの新星、ジェニファー・スタチンスキーが挑戦する女子棒高跳びは、新星に腰痛が出ているのが気掛かり。女王には暑さで集中力を途切らせることなく、自分の持つ世界記録(5m01)のバーを越えてほしい。疾走するウォリナーと劉翔
2004年アテネ五輪以来メジャー大会負け知らず、男子400mで連覇が懸かるジェレミー・ウォリナー(アメリカ)の流れるように美しい走りも観客のため息を誘うだろう。周回しても常に追い風を感じるといわれる「好記録製造トラック」だけに、43秒18の世界記録を破る、夢の42秒台の可能性もある。08年の地元北京五輪で連覇を目指す男子110m障害の劉翔(中国)は、走り慣れた長居競技場で初の世界チャンピオンを目指す。20歳のダイロン・ロブレス(キューバ)らとの競り合いで自己の世界記録(12秒88)を更新し、前回2位の雪辱を果たすか。長距離はベケレらエチオピア勢が優位
記録より勝負が優先される長距離では、ラストの切れ味が明暗を分ける。10000mではエチオピア勢がその特長を存分に生かしそう。男子のケネニサ・ベケレ(エチオピア)は仕上がりも上々で連覇が濃厚。女子は5000mの世界記録保持者でもあるメセレト・デファー(エチオピア)と、連覇を目指すティルネシュ・ディババ(エチオピア)の一騎打ちだろう。そのエチオピアで合宿して一皮むけた福士加代子(ワコール)が念願の入賞を果たすか。高校生代表の絹川愛(仙台育英高)の果敢なレースにも注目だ。“日本のお家芸”マラソン
暑さ対策万全の日本勢に、メダルの期待が大きいマラソンは早朝7時のスタート。女子は過去メダル8個を獲得している得意種目で、大阪国際女子マラソンで走り慣れたコースでもある。経験豊富な土佐礼子(三井住友海上)が中国合宿で脚を痛めたのは不安材料だが、前回日本選手最高の6位で地力も増した原裕美子(京セラ)と小崎まり(ノーリツ)を軸に、大会最終日を飾るメダルを確保したい。最大のライバルは、06年のアジア大会と07年のロンドン・マラソンを制して暑さにも強い周春秀(中国)。ともに世界選手権10000m優勝経験を持つゲテ・ワミとベルハネ・アデレのエチオピア勢は、抜群のスピードが武器。大会初日の幕開けとなる男子は、空前の3連覇を狙うジャウアド・ガリブ(モロッコ)が暑さを苦にせず、勝負強さも図抜けている。前回銅メダルの尾方剛(中国電力)とアテネ五輪6位の諏訪利成(日清食品)らが地の利を生かし、東京大会・谷口浩美以来の金メダル獲得を目指す。
メダルに挑む日本人選手
日本勢で金メダルに最も近いのが男子ハンマー投げの室伏広治(ミズノ)。アテネ五輪制覇以降は体調不良で欠場が多く、実戦から離れているのが心配だが、過去に銀、銅のメダルを手にしており、優勝で3種類のメダルがそろう。地元で王者の意地を見せてほしい。バーショーン・ジャクソンらアメリカ勢が強い男子400m障害では、前回2度目の銅メダルに輝いた為末大(APF)が、後半の歩数を2歩減らす新走法で表彰台を目指す。前回は準決勝で落選した成迫健児(ミズノ)はなんとしても決勝に進出したい。アジア女性初の7m突破を目指す走り幅跳びの池田久美子(スズキ)は、走力がアップしたものの跳躍技術が追い付かずやや低迷している。三段跳びとの2種目制覇を狙うタチアナ・レベデワらロシア勢の壁は厚いが、アジア大会優勝の実績を生かしてメダル争いに加わってほしい。前回8位入賞を果たしている男子棒高跳びの沢野大地(ニシ・スポーツ)は、目標のメダルへどこまで迫れるか。
開会式は宝塚歌劇団の小池修一郎が“鼓動”をテーマに、同歌劇団と歌舞伎の坂田藤十郎らを巻き込んでダイナミックに演出。期間中は吉本のお笑い芸人がにぎやかに盛り上げ、閉会式は河内家菊水丸の河内音頭で大阪らしく締める。この夏一番の熱く華やかなビッグイベントだ。