たとえルールに詳しくなくても、その世界最高峰のプレーを見ているだけで、大興奮すること間違いなし! これを契機に、ラグビーの魅力に触れてみてはいかがだろうか。
“第3の”スポーツイベント
ラグビーを知らない人は少ない。でもラグビーをよく知っている人も、そんなに多くはない。日本のスポーツ界において、ラグビーとは「メジャーのマイナー」という存在なのかもしれない。しかし、ラグビーは、世界各地で堂々と楽しまれており、またスポーツ界における独特の地位を保っている。
2007年9月7日から始まった第5回のワールドカップ(W杯)フランス大会は、サッカーW杯、オリンピックに次ぐ世界で3番目の規模のスポーツ・イベントである。
闘将カーワン率いる日本が出撃!
今回のW杯には「JK」と呼ばれるジョン・カーワン・ヘッドコーチが率いるジャパンも出場を決めている。JKは、ニュージーランド代表オールブラックスの第1回W杯優勝メンバーであり、国際的な名士にして母国の英雄だ。ジャパンは、グループBで、オーストラリア代表ワラビーズ、フィジー、ウェールズ、カナダと同組に入った()。06年暮れのJK就任以来、チーム力は向上しており「最低2勝」の目標達成も不可能ではない。
切り札・大畑大介が、イタリアで行われたポルトガル代表とのウォームアップ試合で左アキレス腱を切ったのは痛いが、救いは、このポジションの層の厚さだ。前回大会、柔軟な体で再三突破、現地メディアから「ラバーマン(ゴム人間)」の異名を授かった、小野澤宏時も調子を上げてきた。
大畑は、ことし1月に右のアキレス腱を断裂、厳しいリハビリを経て代表に復帰したばかりだった。あまりの悲劇には周囲も落ち込んだ。もっとも本人は「現役続行」を気丈に宣言。6年前、民放テレビ番組の「スポーツマンNo.1決定戦」に群を抜く運動能力で優勝、以来、全国区の人気を誇るスピードスターは次回大会出場をめざす。
個性豊かな世界の強豪たち
今回のW杯には、20カ国が参加する。最有力優勝候補はオールブラックスだ。ニュージーランドは、いわばサッカーのブラジル、これでもかと才能豊かな選手が出現してくる。ただし不思議とW杯では弱い。第1回大会を制した後は、思わぬ敗退を続けてきた。フレア(ひらめき)のある開催国フランス、パワーにあふれる南アフリカ代表スプリングボクス、頭脳戦の得意なワラビーズにも優勝のチャンスはありそうだ。
ダークホースは、経験豊富なベテランをそろえたアイルランド、実はラグビーも盛んなアルゼンチン、前回覇者のイングランドあたりだろうか()。
大会の模様は、地上波の日本テレビ系がジャパン戦などを放映、CS放送のJスポーツが全試合の生中継を行う。
エリスという少年
ラグビーは、サッカーと同じく、イギリス生まれの「フットボール」である。よく「1823年に有名なパブリックスクールのラグビー校でのサッカーの試合中、エリスという少年がボールを抱えたまま走ったのが起源」と紹介されるが、実は正確ではない。当時は、まだサッカーという競技もなかったので、ここは「フットボールの試合中」とするのが正しい。サッカーでもラグビーでもない原始フットボールのことである。早くからプロ競技として地球の隅々まで広がったサッカーとは異なり、ラグビーは1995年までプロ化を認めてこなかった。そのため過去のW杯でも、ファッション・ブランド創業者、医師、ピアノ運搬人、金融トレーダー、獣医、弁護士、刑事など、さまざまな職業を持つ選手が参加した。
ノーサイド精神とラグビー文化
歴史的には、階級社会であるイギリスの「ミドル・クラス(中流)」の価値観が色濃く反映されてきた。ノーサイドの精神は一例である。試合が終われば、敵味方の「サイド」がなくなり、ともにビールを傾けながら交歓会に臨む。ラグビーでは、どんなレベルでも、必ずアフターマッチ・ファンクションを行わなくてはならない。サッカー文化が「ワーキング・クラス(労働者階級)」の価値観や環境を反映してきたのとは好対照であり、それぞれの魅力の礎となっている。両競技の性格の違いは、観客席のあり方にも表れている。ラグビーではノーサイド精神から、伝統的にチームごとの応援席はない。早稲田大学と明治大学でも、オールブラックスとワラビーズでも、それぞれのファンは混在しながら自分のひいきを応援して、試合が終われば一緒に酒を酌み交わす。サッカーのサポーター席(こちらはこちらで楽しい)とは異なる喜びがそこにはある。
ラグビー好きは、世界のどの場所でも通じ合える。お互い、独自の文化を好む「同志」という感じがしてくるのだ。