ロックも生誕50年超
ロックが誕生したのはいつか? 諸説あるものの、ロックンロール初のカリスマ・シンガー、エルヴィス・プレスリーが、シングル「ハートブレイク・ホテル」で衝撃の全米デビューを飾った1956年をスタート地点に設定するならば、すでに生誕50年を突破。立派なものだ。もちろん後追いでロックの洗礼を受けた日本の場合、多少歴史が浅いことになるわけだが。それでも、テケテケテケ……のエレキ旋風で、日本中の若者を熱狂の渦にのみ込んだベンチャーズをロックの黒船だと見なせば、彼らが65年に行った伝説の来日公演からすでに40年以上。10代のやり場のないフラストレーションの発露として新種の若者音楽=ロックンロールが爆発して以来、すでにそれだけの歳月が流れた。「ドント・トラスト・オーバー・サーティ(30歳以上を信じるな)」、かつてそんな乱暴な能書きを旗頭にしていたロック自体、30歳どころでなく、40歳、あるいは50歳を超えてしまったのだ。当然、洋の東西を問わず、多くの50代、60代のロック・アーティストもばりばりの現役で活躍中。往年の人気バンドの再結成も相次いでいる。ロックが若い世代の音楽だなんて認識は、とうに過去のものなのかもしれない。いや、むしろ今やロックはおやじ世代のものなのかも……。
続々開催、中高年向けバンドコンテスト
と、そんな移り変わりを背景に、日本では“おやじバンド”シーンが活況を呈している。おやじバンド。要するに、中高年メンバーによるアマチュアバンドのことだが。97年、NHKがスタートさせた毎年恒例の視聴者参加番組「熱血オヤジバトル」をきっかけに、この世代のバンドを対象にしたコンテストが多数開催されるようになり、シーンが活性化した。特にここ4~5年の盛り上がりがすごい。NHKは他にも「全国バンド自慢コンサート」のように、若者だけでなく中高年バンドにまで門戸を開いたコピーバンド・コンテスト番組を放送しているし、TBSも往年の人気アマチュアバンド・コンテスト番組にあやかった「おとなのイカ天」をここ数年定期開催している。ソニーミュージック系列のCS音楽チャンネル“MUSIC ON! TV”も、今年「モテモテおやじバンド文化祭」なるコンテストを開いた。
放送局ばかりではない。西武やそごうなど百貨店も、こぞって様々なおやじバンド企画を主催。高島屋は2007年の正月、宇崎竜童の指導で中高年のバンドがCD制作できる100万円の福袋まで発売した。宇崎竜童といえば、氏を実行委員長に据えた全国規模の「ナイスミドル音楽祭」も10月の決勝に向けて現在各地区の予選が進行中。もちろん、楽器店主催のコンテストも多い。インターネットの人気サイト、価格.comが特別協賛した「おやじバンドフェスティバル」は8月恒例の神宮外苑花火大会で華々しく決勝大会を行った。インターネットにはさらに、社会人バンド、おやじバンド専用のメンバー募集掲示板なども誕生。えらい騒ぎだ。
楽器屋も小金を持ったおやじ世代で大にぎわい。収入も安定している世代だけに、かつて夢見た高額な楽器を、満を持して購入する者も多く、楽器販売市場の活性化にも一役買っている。()
従来はプロ・ミュージシャンを目指す若者のみをターゲットにしていた各種音楽スクールも、次々とシニア向けの楽器講座を開講。アマチュアおやじバンドが、その家族や同僚を総動員する貸し切りライブでスケジュールの穴を埋めつつ、経営の安定をはかる小規模ライブハウスも少なくない。
求む!雄々しく、しかし身の丈での活動
思えば、1980年代後半のいわゆる“バンドブーム”世代も今や40歳前後。この辺を下限に、三大ギタリストにあこがれた50代や、ベンチャーズに入れ上げた60代ら団塊世代まで。今では様々な生業につくバンド経験者たちが、同窓会などをきっかけに再結集。昔の夢をもう一度と野望に燃える者もいれば、老後の楽しみのためにと枯れたアプローチを展開する者も。思いは様々ながら、音楽をコンピューターで作り上げるのが当たり前になる以前に、生演奏の迫力とだいご味を身体で覚えた世代が、今ある種のゆとりのもと、“若いもん”にはわからない、その楽しさを謳歌(おうか)している、と。そんな草の根シーンに対し、団塊世代の消費力を虎視眈々とねらう“アキンドども”が群がりながら、おやじロック・ブームは今、熱く熱く燃え上がっているわけだ。なにやらロック本来の反骨のイメージとはかけ離れたもののようにも思えてくるのだが。仕方がない。前述した通り、ロックももはや50歳。多少の動脈硬化には目をつぶろう。こうした流れを受け、団塊世代向けの新商法として、この世代のロック・ヒーローを新たに作り出し、プロとして稼働させようとする動きなども、もしかしたら見られるようになるかもしれない。50歳の新人ロッカーとか……。まあ、それはそれで悪くない気もするが。
しかし、どうなのかな。おやじロック・ブームはあくまでアマチュア・シーンの出来事として継続していくほうが健全な気が、筆者にはする。コンテスト制覇を目指したり、ライブハウスで晴れの舞台にのぼるばかりでなく、最近では老人ホームの慰問などにまで活動の場を広げるおやじバンドも多いらしい。昨今の商業音楽がなおざりにしがちな、そうした“生のコミュニケーション”の身近な方法論のひとつとして、おやじバンドには雄々しく、しかし身の丈で機能していってほしいものだ。そう願う。