“男・黒田”のドジャーブルー
ロサンゼルス・ドジャースに入団した黒田博樹は、FA市場で屈指の先発投手と評価され、3年総額3530万ドルの高額契約を結んだ。年平均ではレッドソックス松坂を上回る日本人投手最高額。マリナーズやダイヤモンドバックスからも同等以上の提示を受けていたが、ロサンゼルスの温暖な気候と日本人が住みやすい環境が決め手となった。「優勝を争う場面で投げたい」と希望する黒田にとっては、ベストの選択だった。ドジャースは08年、西海岸移転50周年を迎える。1988年以来遠ざかっているワールドシリーズ制覇への思いは例年以上に強く、打線にも10年連続ゴールドグラブ賞のアンドリュー・ジョーンズ外野手を加えた。しかも監督はヤンキースなどで通算2067勝を記録した名将ジョー・トーリ氏。ペニー、ロウら安定感のある先発陣に、絶対的クローザーには斎藤隆がいる。優勝を狙える戦力が整ったといえる。黒田は春季キャンプで、あえてアメリカ流調整法をすべて受け入れた。日本流を否定したわけではない。新たなやり方で自分も知らない能力が引き出されるかもしれない、という期待感があるようだ。広島の赤からドジャーブルーへユニホームが変わったように、黒田の心は「ロサンゼルス仕様」に切り替わっている。破壊力のある日本人野手
福留孝介は、高額年俸選手のそろうシカゴ・カブスと4年総額4800万ドルで契約した。年平均では新人の日本人選手として最高額だ。球団側がオフに獲得を狙っていた選手は「右翼の守れる左打者」。大リーグのFA選手と同一線上に並べても、福留以上に条件に合致した選手はいなかった。本人も日本の球団とアメリカを比較した上で、冷静に移籍を判断した。「チャレンジ」を標榜(ひょうぼう)していたこれまでの日本人選手とは、一線を画す決断だった。アメリカ人関係者が日本人野手に抱くイメージは、器用さとスピードだろう。マリナーズのイチローを筆頭に、パドレス井口資仁、アストロズ松井稼頭央、レイズ岩村明憲らは、いずれも1~2番タイプの選手として成功した。クリーンアップを打てる破壊力を備えているのは、ヤンキース松井秀喜だけというのが現状だ。その松井にしても、超重量打線の中では「脇役」を強いられている。福留が中日時代のようにチームの主軸となれるか、それとも周囲のパワーヒッターに押されて小さくまとまるのか。シーズンを通して注目されるポイントだ。岡島が開いた救援投手の道
小林雅英(33)、薮田安彦(34)、福盛和男(31)の3投手は、レッドソックス岡島秀樹に感謝するべきだろう。07年のワールドシリーズ制覇に大きく貢献したセットアップ左腕の存在が、彼ら救援投手の契約を後押ししたことは言うまでもない。「安くてタフで優秀」。日本人投手のイメージがアメリカ球界に確立された感がある。3人の中でも抜群の実績を誇るのが、インディアンスと2年総額625万ドルで契約した小林だ。通算227セーブは日本歴代3位。日本代表としてアテネ・オリンピックにも出場。チームには昨シーズンのセーブ王、ボロウスキーがいるため、小林は中継ぎでスタートする。しかしこの守護神は防御率が5点台と安定感に欠け、シーズン途中で小林に抑え役が回ってくる可能性は小さくない。これまでもマリナーズ長谷川滋利やホワイトソックス高津臣吾のように、中継ぎからクローザーに昇格した例は目立つだけに、期待がかかる。
小林と同じロッテで活躍した薮田は、ロイヤルズと2年総額600万ドルの契約を交わした。中継ぎ投手として活躍した最近4シーズンで通算222試合に登板し、防御率も2.62~3.07と安定。08年から指揮を執る前日本ハムのヒルマン監督から、頼りにされる存在となれるか。
楽天の守護神として活躍した福盛は、レンジャーズと2年総額300万ドルで契約した。落差の大きいフォークボールは、大リーグでもあまり見られない球種。かつて横浜で佐々木主浩(元マリナーズ)が退団した後のクローザーを務めたこともある。大魔神級の衝撃を大リーガーに与えてほしい。
野茂英雄が初めてドジャースと契約してから13年。日本人にとって大リーグは未知の世界ではなくなり、移籍に伴うリスクも小さくなった。それでも「世界最高の舞台」という魅力が薄れたわけではない。08年、海を渡った新たな戦士たちは、それぞれの目標に向かって第一歩を踏み出す。