最年少記録を次々に更新
若さ、ルックス、実力、運の強さ、そして、パーフェクトな受け答え。プロゴルファー石川遼は、スターに必要な要素を十分過ぎるほど持ち合わせている。あの日から、石川の環境は激変した。2007年5月20日、マンシングウェアオープンKSBカップにアマチュア枠で初出場。最終日、首位に7打差23位から36ホールを回り、プロたちを押しのけて逆転優勝を遂げた。高校1年生。15歳245日でのゴルフツアー世界最年少優勝記録(ギネスブックに認定)という快挙だった。
当然のごとく翌日から石川遼フィーバーが起きた。石川が出場すれば、小さなアマチュア大会も大観衆となり、ゴルフ取材とは縁がなかった女性誌、テレビのワイドショーも会場に駆けつけてカメラを向けた。
08年1月10日、プロ転向を宣言した。16歳3カ月24日での日本男子ツアー(JGTO)史上最年少プロとなった。直後から、激しいスポンサー契約交渉合戦が始まった。用具契約のヨネックス、所属契約のパナソニック、ANA、トヨタ自動車、コカ・コーラ、NTTドコモ…。同年4月のツアー開幕戦までに、その契約総額は約23億円に達した。破格契約の数々。メディアも競って、その一挙手一投足を取り上げる。重圧に押しつぶされてもしょうがない状況だったが、08年シーズンで文句のつけようのない結果を残した。獲得賞金1億631万8166円で賞金ランキング5位。マイナビABC選手権では、深堀圭一郎と争ってプロ転向初優勝を果たした。17歳1カ月での制覇は、同ツアーでのプロ最年少優勝。1億円突破、賞金シード獲得も史上最年少だ。
ドライバーで勝負する超攻撃型スタイル
この1年、石川はドライバーを徹底的に磨くことにこだわった。さまざまな重圧を背に目先の結果もほしい中、「350ヤードを真っすぐ打ちたい」という思いを胸に、練習場でもドライバーを振り続けた。スコアをまとめるためには、パットや小技を磨くことが近道だったかもしれない。「刻み」のゴルフを覚えることも効果的という声も耳に入ったが、ドライバー1本にかけた。結果、300ヤードを誇る飛距離はさらに伸び、球筋も右から左に曲がるドローだけでなく、ストレートに近い左から右に曲がるフェードも打てるようになった。比較的短く、左右が狭く、アイアンやフェアウエーウッドでも対応できるホールでも、あえてドライバーを持って、ボールをできるだけグリーンに近づける。そして2打目、3打目でピンを狙う。この「超攻撃型ゴルフ」は、一般アマチュアゴルファーにも多大な影響を与えていた。「遼君みたいに」とドライバーを豪快に振り、距離を稼ぎにいく。結果はどうであれ、石川はゴルファーたちに攻め切る魅力を再確認させたと言っていいだろう。
マスターズの高い壁
09年になり、特別招待枠で4大メジャー大会のひとつ、石川が最もあこがれてきたマスターズに出場した。17歳6カ月での同大会出場は、1936年大会出場の戸田藤一郎の21歳の記録を大幅に更新した。埼玉・松伏小の卒業文集に「二十歳、アメリカに行って世界一大きいトーナメント、マスターズ優勝。マスターズ優勝は僕の夢。それも二回勝ちたいです」とつづっていたが、未来予想図の3年も早く夢舞台に足を踏み入れた。しかし、世界の壁は想像以上に厚かった。2日目を終えて、首位に15打差つけられての予選落ち。ピンを果敢に攻めるスタイルのまま戦い、跳ね返された。だが、前年に冴え渡ったドライバーショットは左右にぶれた。2日間でパー3を除く計28ホールすべてでドライバーを握り、フェアウエーキープ率は50%と、出場96人中92位だった。
スイング改造は必要だったか
原因はマスターズまで1カ月を切った時期から始めた「スイング改造」にあるという見方が強い。初めてアメリカツアーに挑戦した2月のノーザントラストオープンで予選落ち。本人が「足りないもの」を痛感し、マスターズを見据えて変化を求めたとされている。だが、現実的には、それは周囲の勧めによるものが大きかったようだ。「このままでは遼はマスターズで通用しない」と焦り、アメリカ在住のプロコーチに教えを求めた。構えで右肩を極端に下げ、アッパブロー気味に振り抜く新スイングで、球筋をより高くし、飛距離も伸ばす狙いはあった。だが、結果は生命線のドライバーの方向性を狂わせてしまった。通常、プロでもスイング改造にはオフの数カ月、もしくはシーズンも含め年間を通して取り組む必要があるとされる。結局、石川はマスターズ前に再びスイングを変えたが、1億円以上を稼ぎ出した2008年のスイングを見失う形になってしまった。
日本に戻り、石川の試行錯誤は続いた。08年シーズン前後に石川を指導した尾崎将司はその様子を見て、なぜそのままのスイングで行かなかったの理解できないと、マスターズ前のスイング改造に首をひねったという。
金魚鉢の中で
「ゴルフは終りはないスポーツ」と言われる。タイガー・ウッズでもさらなる進化を求め、厳しい練習を重ねている。一方で間違った方向に進めば調子は瞬く間に崩れ、スランプが続く「怖いスポーツ」とも言われる。石川は人気、実力ともに数十年に1人の逸材かもしれないが、まだ10代で心技体ともに未完成だ。ウッズもフィーバーの中にいる石川を見て「彼は金魚鉢に入っている(見せ物になっている)。ゴルフから離れて多くの趣味を持つことで、結果的にゴルフも前向きに取り組める。毎日、ゴルフする必要はない。ゴルフがすべてではないからね。大学に行くなど、すべての10代が経験することをすれば、成長につながるよ」と忠告している。ツアーのない週もCM撮影、イベント参加、練習などで高校に通学できない日が多いとも聞く。まだ、未成年ゆえにまだ自分の意志を貫ける立場でもないだろうが、周囲が誤った方向に導けば、せっかくのダイヤモンドも輝きを失いかねない。長い視野で、ゴルファーとして、人としてどう成長し続けられるか。周囲もメディアもファンも冷静かつ温かい目で、石川を見守る必要があるようだ。