「ツイッター短歌」、急増中
実はここ20年ほど、短歌は「ひそかな」ブームと言われ続けている。「自分の気持ちを短い言葉で表現してみたい」と創作活動を始める人は多く、歌人が投稿を募れば新聞・雑誌・インターネットの場を問わず、多くの短歌愛好家から作品が集まる。「短歌」「講座」などのキーワードで検索をかければ、全国各地のスクールや通信講座が多数ヒットすることからも、その人気はわかるだろう。こういうジャンルは、実は珍しい。衰退するでも過剰にメディアに登場するでもなく、10代の若者から中高年、さらにその上の世代まで含む幅広い層の愛好家が存在し、それぞれがそれぞれの時代、世代に即した短歌を詠(よ)み続けている。俵万智の第一歌集「サラダ記念日」が刊行された1987年の大ブームを除けば、短歌ブームはここ数十年間変わらず「ひそかに」進行中なのである。
そして、現在にわかに注目されるメディアツール「ツイッター」においても、短歌は「ひそかに」人気を博している。
「ツイッター短歌」のいま
日本においてツイッター利用者が激増したのは、携帯向けサイトが開設された2009年後半からだが、それからたった半年足らずで既にツイッターは多くの短歌であふれている。たとえば、ツイッターの特徴的な機能である「ハッシュタグ」は、短歌関係のものだけで「#tanka」「#jtanka」「#_短歌」などが存在する。自作の短歌にこれらのタグをつけてつぶやけば、短歌に興味を持つ多くのユーザーにその作品を見せることができる。これらのタグのついたつぶやきはユーザーの増加とともに数を増しており、多い日では一日数百首を超える短歌がつぶやかれている。
また、枡野浩一(@toiimasunomo)は歌人としての活動の場にツイッターを選び、そのつぶやきすべてを「5-7-5-7-7」のリズムにするという徹底ぶりで多くのフォロワーを集めている。投稿短歌をツイッター経由で募集するなど先進的な試みも次々と開始し、今後が注目されている。
おもしろいところでは、急増する「ツイッターbot」と呼ばれる存在だ。botとはrobotの略で、いわば「自動つぶやきロボット」であるが、有名歌人の既発表作を定期的につぶやく「歌人bot」も増えている。西行の短歌をつぶやく「@saigyobot」や、その耽美な作品世界が若いファンを集める歌人・黒瀬珂瀾の作品を投稿し続ける「@karan_bot」などがその代表であろう。
また、手前味噌(みそ)だが、筆者の制作した短歌自動生成bot「星野しずる」(@Sizzlitter)も挙げておきたい。これは、あらかじめ登録された数百語の語彙(ごい)をランダムに並べて「詩の立ち香る」作品を量産するbotである。
・緊張に恋して夜の少年のごとくまばゆい曲線でした
・口づけのことを知らずに意味のないノートの風でさえも永遠
などの短歌で、「とてもプログラムがつくったようには思えない」「けれども人間業とも思えない」と一部のユーザーから熱狂的な人気を博している。
インターネットが支えてきた「新しい短歌層」
こうした「ツイッター短歌」の登場の背景には、短歌界におけるインターネットの活用の歴史がある。前述の俵万智以降、穂村弘、枡野浩一らの活躍によって若年層の短歌に対するイメージは塗り替えられ、口語短歌を気軽に詠む10代、20代の短歌愛好家層が出現した。こうした層の登場とインターネットの隆盛とは無関係ではない。
1990年代後半以降、ネットを通じた情報発信の手法は様々に進化してきた。個人ホームページに始まり、BBS(掲示板システム)、ブログ、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)といった仕組みが次々と生まれたが、歌人たちはそのどれもを巧みに利用している。たとえば、穂村弘の「ごーふる・たうんBBS」は多くの新進歌人が集う場となったし、荻原裕幸らはBBS上で公開選考を行う「歌葉新人賞」を立ち上げた。五十嵐きよみは「題詠マラソン」(参加者が、あらかじめ決められた100のお題についてそれぞれ1首ずつ、計100首を一定期間内につくりあげるイベント)を、ブログを中心に展開し、枡野浩一は「枡野浩一のかんたん短歌blog」上でトラックバックによる短歌投稿を募って、さらなる短歌愛好家の掘り起こしに成功した。SNSの最大手「ミクシィ」には多くの歌会コミュニティーが存在し、また、短歌投稿・共有に特化したSNS「うたのわ」も、1000人近い登録者(2010年3月現在)を有する。
常に発表・交流・新人発掘の場を求めてきた歌人・短歌愛好家たちが、「ツイッター」という未知の場でそれぞれに新たな実験を始めているのである。
親和性が意外に高い「ツイッター」と「短歌」
ツイッターの魅力は、いまだにその全貌(ぜんぼう)が明らかになったわけではない。だが、一つ一つのつぶやきの短さ、投稿の気楽さ、プロかアマか、有名か無名かの垣根を越えた個人のやりとりのしやすさ、といったことは真っ先に挙げられるだろう。そしてこれらの特徴は、そのどれもが短歌との親和性が高く、ツイッターで短歌を発表する「歌人」たちが有名・無名を問わず今後も増えていくことは間違いない。多くのつぶやきがそうであるように、こうした「歌人」たちの作品も玉石混交である。だが、玉石混交のつぶやきの中から魅力を感じるつぶやきを見つけ出し、自分なりのタイムラインを編集していくのもまた、ツイッターの楽しみ方の一つである。ぜひ、読者諸氏の琴線に触れる「ツイッター歌人」を見つけ出し、フォローしてみてはいかがだろうか。
ハッシュタグ
ツイッター用語。「#」で始まるキーワードのこと。自分のつぶやきに入れることで他の人からの検索や閲覧が容易になる。たとえばツイッター内で#Seijiを検索すれば政治に関連する世界中からのリアルタイムのつぶやきが追跡できる。
フォロワー
ツイッター用語。自分のつぶやきを「購読」している人のこと。
トラックバック
ブログの機能の一つ。自分のブログから相手のブログへリンクを張った際、その旨を相手のブログに通知する仕組み。
タイムライン
ツイッター用語。ツイッターのメイン画面。自分がフォローしているユーザー全員のつぶやきが時系列順にリアルタイム表示される。
フォロー
ツイッター用語。相手のつぶやきを自分のタイムラインにリアルタイム表示させるために「購読」すること。