TDR一極集中
東京ディズニーリゾート(以下TDRとする)は、主として東京ディズニーランド(以下TDLとする)、東京ディズニーシー(以下TDSとする)、関連ホテル群、イクスピアリ(ショッピングセンター)から成る複合施設で、オリエンタルランドによって経営されている。オリエンタルランドは三井不動産と京成電鉄が出資して作られた会社で、現在でも両社が株主の筆頭に名を連ねている。この複合施設の目玉になっているのは、二つのテーマパークなので、以下これらについて述べる。TDLは、アメリカのウォルト・ディズニー・プロダクションズ(当時)からライセンスを受けてオリエンタルランドが千葉県浦安市の埋立地に建設し、1983年4月15日にオープンした。
最初のころは博覧会と勘違いされて「いつまでオープンしているんですか」と聞かれたというが、30年後の現在も健在であるばかりか、ますます隆盛をきわめている。パークがTDLのみだった最後の年、2000年の年間入場者数は1730万人だった(この数値を含めデータはいずれもオリエンタルランド株式会社株主向け資料より)。
TDSは、海浜(とくに港)をテーマとしたパークで、01年9月4日にオープンした。2つのパークが年間を通して営業した02年には、年間入場者数が合計で2482万人に上った。この数字は08年には、これまで最高の2722万1000人に達した。13年3月に発表される12年度の数字は、08年を上回ると予想されている。
これまでオリエンタルランドは、2つのパークが互いの入場者を奪い合う「カニバリズム(共食い)」を避けるため、TDLは親子連れ向けでアニメーションのキャラクターとライド(乗り物)を前面に出し、TDSは大人のカップル向けで、ディズニー・アニメーションのキャラクターを使わず、ライドもあまり作らないということで差別化してきた。しかし最近になってこの方針を転換し、TDSにもアニメーション・キャラクターとライドを投入するようになった。これが功を奏したのかどうかはもう少し様子を見なければならないが、12年度のTDRの年間入場者数がこれまでで最高になるとすれば、08年以来の減少から増加に転じたことになるので、「カニバリズム」を克服したことになる。
TDRの収入が日本の遊園地・レジャーランド市場に占める割合は、10年にはついに45.9%に達した。これは、この数年間市場全体が縮小しているなかで達成されている。つまり、TDRだけが不況の影響を受けずにいるため、一極集中化が進んでいるのだ。
三位一体の相乗効果
TDRがこのような圧倒的な勝利を収め続けているのは、オリエンタルランドの経営努力もさることながら、そして、公共交通機関を使って30分で来られる範囲に世界でもっとも可処分所得の多い人々が3000万人以上住んでいる、首都圏という最高の立地もさることながら、やはり「ディズニー・シナジー(相乗効果)」のおかげだろう。もともとウォルト・ディズニー・プロダクションズは、テーマパークというより、アニメーション、映画、テレビ番組など映像作品の製作が主だった。これらの映像作品がヒットすれば、人々はディズニーランドに行きたくなる。そこでレジャーを楽しみ、グッズを買うことで、ディズニーの映像作品に対する愛着は一層深まる。だから、またアニメーションや映画やテレビ番組を見る。それらが人々をまたパークへ駆り立て、グッズを買い求めさせる。これがディズニー・シナジーだ。
ウォルト・ディズニー・プロダクションズを引き継いだウォルト・ディズニー・カンパニーは、テレビ番組は別として、近年あまりアニメーションや映画を作らなくなってきている。だが、80年にもわたって無数の傑作を生み続けてきたため、そしてそれらが携帯端末やインターネットを通じて、以前より頻繁に流れるようになったため、そのブランドの訴求力は強まりこそすれ、決して弱まってはいない。
TDRも、オリエンタルランドの所有ではあるが、「ディズニー・シナジー」のなかにしっかり位置づけられている。それが、これらのパークの日本における優越性につながっている。
ディズニー系のパークは、この「ディズニー・シナジー」のもと、レジャーと消費と広告が三位一体をなしている。これらのパークは大型レジャーセンターであると同時に、大規模ショッピングセンターであり、かつ巨大広告スペースとなっていて、互いにシナジーを発揮しあっている。
これは、ウォルト・ディズニーが1955年7月にロサンゼルス郊外のアナハイムに、最初のディズニーランドを開園させた当時からそうだった。ウォルトは、「冒険の国」「開拓の国」「未来の国」「おとぎの国」から成るこのパークを大規模店舗として登録し、とくに「未来の国」には、自社PRのためのパビリオンを出してスポンサーとなるよう、国内企業に呼びかけた。初めから多角収益を上げられるビジネスモデルを考えていたのだ。このスポンサー・パビリオン制度は、現在も踏襲されている。
TDRに関していえば、入場者1人当たりの平均使用金額は2010年に1万22円と1万円台を越えたが、そのなかで商品購入が3629円を占めた。この商品購入額の上昇が、使用金額全体を押し上げている。これは前述のビジネスモデルによるものだろう。また、あまり注目されることはないが、TDRのアトラクションにもスポンサーがついていて、それぞれ年間数億円のスポンサー料を払っている。日本の他のレジャー施設は、このような収入構造も強みも持っていない。TDRは年間入場者数で他を引き離しているが、収入面ではさらに大きく水をあけている。
現在日本のレジャー施設は、長引く不況のもと一層の淘汰(とうた)が進んでいるが、TDRは独り勝ちを続け、少子化のなかでも好調を保っている。
世界でもディズニー独り勝ち
では、このTDRを世界のほかのテーマパークと比較するとどういうことになるだろうか。09年からの数字を見ると、日本のファンには残念なことに、個別のパークとしては、フロリダ州のオーランドにあるウォルト・ディズニー・ワールドの中のマジック・キングダムが1700万人前後で、3期連続入場者数世界第1位になっている(11年以降のデータはまだ公開されていない)。第2位も3期連続でアナハイムの元祖ディズニーランドだ。TDLとTDSは同じ09~11年に連続でそれぞれ第3位と第4位を占めている。利益の面でいけば、TDRの両パークは順位が上がると見られるが、アメリカ側のウォルト・ディズニー・カンパニーがそのようなデータを公開していないので、比較できない。非ディズニー系のテーマパークとしては、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンが同時期に連続で第9位に入っている。だが、第1位と比べると半分にも満たない800万人台で推移している。世界的に見ても、ディズニーランド・パリを含め、トップ10中8つを占めるディズニー系パークは、圧倒的に強いといえる。