そして、今話題となっているのが、さらなる高画質化へ向けた「4K」および「8K」の計画と、その賛否である。
4K、8Kは国策
そもそも4Kとは、現状のフルHD(フルハイビジョン=2K)の4倍、8KはフルHDの16倍の画素数をもつ超高精細映像である。過去を振り返っても、白黒からカラーへ、アナログからデジタルハイビジョンへと、技術の進歩にともなった放送の高画質化は自然な流れといえ、世界でも先進国を中心に、高精細化に向けた計画が進行中である。そうした中、日本では、13年5月に総務省ICT成長戦略会議でロードマップが策定され、同年6月1日に次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)が事業概要を発表した。世界で標準となりうる放送技術を確立し、世界へ打って出ようと、国策として動き出しているのだ。
4K化の必然性
一般の視聴者に「4Kや8Kは必要か?」とたずねれば、大半は「必要ない」と答えるだろう。テレビの買い替えが必要なのに加え、十分な視聴機会のない現時点では、フルHDとの違いが判断できないからだ。しかし、スマートフォンの画面を想像して欲しい。現在の高精細な画面に慣れると、一昔前の1個1個の画素のツブツブが見えるような画面には戻れない。新しい技術は常に要不要が論じられるが、広く普及すると当たり前になるものである。より高精細な4Kや8Kへ向かうのは、至極当然だ。そしてたとえば、テレビの売れ筋サイズは、10年前では32型クラスだったのに対し、現在では価格の下落も後押しして、50型クラスへとシフトしている。32型から50型に買い替え、視聴距離が同じだと、フルHDの映像でも画素のツブツブが目立つようになってしまう。4Kテレビは画素の大きさが4分の1になるので、画質はともかく、画素のツブツブは目立たなくなる。フルHDを視聴する場合でも、4Kテレビの導入はメリットがあるのだ。
次に、CSデジタル衛星やインターネットを通じて開始されている「Channel 4K」の試験放送や「ひかりTV 4K」の配信では、フレームレートもフルHDの60i(1秒間に60フレーム〈30コマ相当〉で構成される映像)の2倍となる60pに引き上げられ、動きのある映像もより滑らかになっている。緻密で動きの滑らかな映像は、その場の空気感をも伝え、没入感や臨場感が高まる。サッカーなどのスポーツ中継では、ピッチ全体を捉えたロングショットでも、選手の表情やユニフォームの風合いまで感じ取れるほどだ。
8Kはオーバースペックか?
映像の高精細化の最終目標が8Kことスーパーハイビジョンだ。開発の中心を担うNHKの見解では、家庭における画面サイズとテレビまでの視聴距離を前提とした場合、8K以上の高精細は人間の視力では識別できないと結論付けている。8Kをターゲットにしているのには、一定の根拠があるのだ。8Kの開発に付随する、さらなる映像圧縮技術や伝送技術の研究にも意義がある。こうした技術革新は、有限の通信容量の中で、いずれ4K放送の多チャンネル化や携帯機器での視聴品質の向上にも寄与するからだ。
また、音声の仕様も、22.2チャンネル、つまり22台のスピーカーと2台の低音用ウーファーで視聴者を取り囲み、360度包み込まれるような立体的な音場再現を目指すという。ただし、実際のところ、家庭に合計24台ものスピーカーを設置するのは不可能で、テレビの周囲に少数のスピーカーを配置する仮想立体音響システムも提案されている。また、実情に合わない22.2チャンネルを推し進めるよりは、CDを超える高音質として流行しているハイレゾことハイレゾリューションオーディオを採り入れるべきとの声も多い。
8Kになれば、壁面いっぱいに200型の画面を映し出しても、ほとんど画素が目立たないレベルに到達する。視野を覆う高精細な映像は、その場に居合わせたかのような感覚を生み出し、バーチャールリアリティーの領域に達するものと考えられる。8Kの実現で「見るテレビ」から「体感するテレビ」へと、テレビの用途自体が変わるかもしれない。
視聴者のコスト負担は?
現時点で発売されている多くの4Kテレビは、実は4K放送に対応するチューナーを内蔵していない。4K放送を試聴するためには、外付けチューナーやSTB(セット・トップ・ボックス テレビと接続する受信端末)を別途で購入する必要がある。4Kネット配信については、サービス事業者とテレビメーカーの連携により、4Kテレビ本体のみで再生できるようになる可能性が高いが、高速インターネット回線への加入が必要になるなど、別途のコストが発生する点で手軽とは言い難い。さらに、4K放送受信にまつわる月々の受信料や、高速インターネット回線の利用にかかる割高な料金も課題となりそうだ。一方、4Kテレビの価格自体は下落傾向にある。現在、1インチ当たり5000円程度と、フルHDテレビに比べると割高ではあるが、技術が進展して量産が進めば、同じ水準まで下落すると見てよいだろう。
矛盾する技術面
4K、8Kは技術面で矛盾を抱えている。それは、膨大なデータを現実的な技術と通信容量の制約の中でコンパクトに伝送するための「動画圧縮」であり、この圧縮自体が画質劣化をともなう点だ。たとえば、4K放送ではHEVC/H.265と呼ばれる新しい映像圧縮技術が採用される。この技術では、現在の地デジや衛星放送で用いられているMPEG2の約4倍も高効率な圧縮が可能とされているが、4Kの画質を十分に引き出すには70Mbps(1秒当たり7000万ビット)程度のビットレートが必要との見方が強い。一方で、放送に用いる衛星のトランスポンダー(中継増幅器)1台当たりの伝送容量は40.5Mbpsしかなく、実際には35Mbps程度での運用が見込まれている。
ところが、35Mbps程度で送出される4Kの試験放送を見ると、静止画に近い映像では十分な精細感が得られるものの、シーンの切り替わりや明暗の変化、画柄の変化が激しい場面ではブロック状のノイズやグラデーション部分に等高線のような縞模様が生じるなど、問題が多い。
さらに、インターネットを経由した4K配信においては、いっそう圧縮率を高め、25Mbp程度の伝送を想定している事業者が多い。
4K
横3840画素×縦2160画素(約830万画素)からなる超高精細映像で、現行のフルHD(フルハイビジョン)の横1920画素×縦1080画素(約207万画素)と比べてちょうど4倍の画素数となる。「1000」を「1k(キロ)」と称することから、横方向の3840画素を約4000画素とみなし、「4K(ヨンケー)」と呼ぶ。2014年6月2日からCS衛星放送「Channel 4K」による試験放送がはじまっている。光回線を使ったネット配信のVOD(ビデオオンデマンド)では、同年10月27日から「ひかりTV 4K」の実用サービスが開始された。また、15年3月1日からCS衛星放送で世界初の有料4K放送サービス「スカパー!4K 総合」と「スカパー!4K 映画」がスタートした。
フルHD
フル・ハイ・ディフィニション(Full High Definition)、つまりハイビジョン規格の上限となる高精細映像のことで、フルハイビジョンと同義。衛星放送やブルーレイディスクソフトの映像など、横1920画素×縦1080画素(約207万画素)の映像をさす。横方向の1920画素を約2000画素と見ることで、「2K」などとも呼ばれるようになっている。
8K
「スーパーハイビジョン」とも呼ばれる。NHKが中心になって開発している、横7680画素×縦4320画素(約3318万画素)からなる超高精細映像で、現行のフルHD(フルハイビジョン)の横1920画素×縦1080画素(約207万画素)と比べてちょうど16倍の画素数となる。「1000」を「1k(キロ)」と称することから、横方向の7680画素を約8000画素とみなし、「8K(ハチケー)」と呼ぶ。
動画圧縮
膨大になりがちな動画映像データは、伝送帯域の節約を目的とし、圧縮して視聴者に届けられている。1秒間に30~60枚の静止画が連続して構成される動画映像は、前後の画に関連が多く、可能な限り差分のみを伝送することで、大幅なデータの圧縮が可能になる。この仕組みでは、動きの少ない映像ほど圧宿効率が高まる。
たとえば、フルHD(フルハイビジョン)の映像では、約207万画素で1秒当たり30コマを要するので、1秒分のデータ量だけで約1.5Gbit(15億ビット)、つまり約1.5Gbps(15億ビット毎秒)にもなってしまうが、衛星放送のフルHD放送の平均ビットレートで言えば、約20Mbs(2000万ビット毎秒)まで圧縮している。映像のような膨大なデジタルデータを扱う際には不可欠な技術であり、MPEGを基本にさまざまな手法や技術が生まれ、成熟の域に達しているが、今後の4K、8Kの高精細時代に向け、さらなる進化が期待される。
地上デジタル放送
かつての地上波アナログ放送に置き換わる新しい放送で、「地デジ」と呼ばれる。ハイビジョン放送ではあるが、原則、横1440画素×縦1080画素(約156万画素)で、衛星放送などによるフルハイビジョンの横1920画素×縦1080画素(約207万画素)より解像度は低い。またハイビジョンではない標準画質で3番組を同時に放送するマルチ編成にも対応している。