携帯電話向け映像配信サービスとは?
携帯電話向けの映像配信サービスは、放送電波を受信するワンセグとは異なり、インターネットから映像データをダウンロードし、携帯電話で再生する方式だ。高精細で長時間の映像コンテンツの場合、ダウンロードするデータが大容量となるため、高速かつ安価な通信が必要となる。携帯電話のハイスピード化は「HSDPA」や「EV-DO Rev.A」といった新技術を中心に進んでおり、現在2~3Mbps(メガビット/秒)での通信が可能である。また、今後より高速な通信も可能となる見込みだ()。パケット通信料の定額制は着実に浸透しており、ハイスピード化とあわせると、大容量の映像コンテンツを利用しやすい環境が整いつつある。
大容量映像コンテンツ、続々登場!
携帯電話向け映像コンテンツの大容量化は、さまざまな形で進んでいる。NTTドコモが提供するFOMA向け動画提供サービスのiモーションは、2007年2月より、従来は最大数百KB(キロバイト)~数MB(メガバイト)だった最大容量を10MBに拡張、画面サイズもそれまでのQCIF(176×144ピクセル)から、約3倍のQVGA(320×240ピクセル)にするなどして、高画質・高音質の映像コンテンツの提供を開始している。
携帯電話事業者以外のコンテンツプロバイダーも新たな動きを見せている。
jig.jp社が開発したjigムービーは、従来は不可能だった長時間の動画配信が可能な、携帯電話向けの動画配信方式で、VOD(ビデオ・オン・デマンド)配信とリアルタイム配信のいずれにも対応する。ユーザーは無料の再生用プレーヤーをダウンロード、映像を提供する携帯サイトから映像ファイルをダウンロードして動画を楽しむ。パソコン向け映像配信サービス「DMM.com」の携帯電話版「DMMモバイル」や、iPod専門テレビの携帯電話版「PodTV」、東京証券取引所のニュース配信サービス「KABU24.TV」などで採用されている。
インターネットプロバイダーのニフティも三井物産とともに、FOMA向けに「モバドーガ」を開始している。アニメ、ニュース、お笑い、映画、グラビアといったメニューで無料動画が配信されており、パソコン向け動画ポータルサイト「@nifty動画」とポッドキャスティングのポータルサイト「Podcasting Juice」の番組も配信されている。
こうした動きによって、画面サイズの小ささといった違いはあるものの、携帯電話利用者に対して、自宅のテレビで映画などのDVDを楽しんだり、パソコンで映画や旧作テレビ番組の動画を楽しむのと同様の環境が提供されることになる。また、携帯電話の手軽さから、外出先で自由にこうしたコンテンツを楽しむことができるようになる。
新たなプロモーションビジネスも
大容量の映像コンテンツ配信サービスを取り巻くビジネス環境も変化しつつある。スカイパーフェクト・コミュニケーションズを中心に設立された「スカパー・モバイル」は、携帯電話やモバイル端末への有料配信を通じ、コンテンツ配信事業、広告・マーケティング事業、認証・課金事業を組み合わせることを目指している。ワンセグと連携した番組配信も視野に入れながら、有料コンテンツの配信、モバイル広告、EC決済事業などが展開される見込みだ。
携帯電話向けのコンテンツ配信サービスは、これまで映画宣伝などの無料コンテンツが中心で、決済サービスなどもiモード(NTTドコモ)やEZWeb(au)での公式サイトを中心としたものに限られていた。今後は、映像系コンテンツを多く有する放送事業者などが参入してくることで、従来の携帯電話事業者中心型のビジネスモデルに加え、放送事業者独自のビジネスモデルや、携帯電話事業者と放送事業者とが連携したビジネスモデルが登場し、サービスが多様化すると予想される。
富士フイルムでは、携帯電話向け動画変換・配信ASPサービス「Keitai Video」を開始している。同じ携帯電話でも、機種ごとに扱える動画の形式やサイズは異なる。このサービスは、機種ごとに最適なサイズや形式に自動変換して配信する点が画期的。既にユニリーバ・ジャパンの男性用化粧品「AXE」のサイトで採用されている。事業者側では、携帯電話向けのプロモーション用動画の配信ニーズが高まっており、映画や音楽、通販などの事業者が持つ映像を、携帯電話配信用に変換するサービスが注目を集めている。
こうしたプロモーションビジネスの登場により、従来の静止画やテキストを中心とした広告に限定されない、テレビCMのような動画像や携帯電話向けの独自プロモーション映像が、携帯電話の利用者に対して提供されることで、商品情報やブランドイメージがわかりやすくなり、購買意欲が刺激されることが期待されている。
ハイスピード化が普及のカギ
携帯電話向けの大容量映像コンテンツの配信サービスは、今後一層本格化すると期待されている。パケット通信料の定額制は、iモードやEZwebといったインターネット接続サービスとフルブラウザーの利用で浸透してきているが、ハイスピード接続が可能な端末はまだ限られている。そのため、端末のハイスピード化が、今後のサービスの市場性を左右するだろう。また、現在提供されているコンテンツの多くは映画や音楽、お笑いといったエンターテインメント系である。幅広い利用者を獲得するためには、放送系のワンセグとも連携しながら、ニュース、交通情報、天気予報、生活情報など、生活やビジネスの場で必要なコンテンツを提供することが求められるだろう。