解消が急がれる財政赤字
日本の国家財政は、大幅な財政赤字の状態である。歳入のうち、借金である国債発行による収入に依存する割合(公債依存度)は、依然として30%台(2007年度30.7%)にとどまっている。その結果、国債残高も07年度末には約547兆円に達し、国債残高対GDP比は104.8%になる。したがって、財政赤字の改善は、国債残高の縮減とともに政府の重要課題である。
実は、公債依存度についていえば、小泉純一郎内閣の時代(01年4月から06年9月まで)に最大44.6%であったものを、とりあえず30%台に低下させることに成功していた。その意味で、大幅な財政赤字削減が実現されたといえる()。そのため、経済財政諮問会議は06年度の「骨太の方針」の中で、プライマリーバランス(借入収入を除いた税収などの歳入と、借入に対する元利払いを除いた歳出の収支)が、11年度に黒字化することを示した。もし、プライマリーバランスが黒字化するならば、第1段階の財政再建が実現できたことになる。
ただし、プライマリーバランスの黒字化が実現しても、国債費に相当する分の財政赤字は依然として残っており、国債残高は増加しているので、財政赤字を縮減するような政策は継続しなければならない。財政赤字がなくなったとしても、過去の負の資産である膨大な国債残高がそのまま残っていることに、変わりはないのである。
財政赤字が存在することによる弊害は、収入に見合うだけの支出に抑える、という財政節度が失われることである。もちろん、景気が悪化した時、景気を刺激するために収入を上回る支出を行い、その差額を国債の発行で賄うことは許されるであろう。しかし、恒常的に財政赤字が続くことは望ましくない。このような構造的財政赤字については、収入を増加させるか、支出を削減するか、あるいはその両者を同時に実施する必要がある。
財政赤字がもたらす具体的な弊害は、「義務的支出」である国債費の割合が高くなることによって、財政の硬直化が進行することである。政府が自由に決められる支出の割合が減少するので、政策の効率性が低下してしまう。したがって、財政赤字、特に構造的な財政赤字は早めに解消することが必要である。
政府資産が語られない意図とは?
一方、財政赤字によって生じた国債残高の膨大な累積による弊害を問題にする場合は、多少注意が必要である。国債残高は、直接的には国の借金の残高を表わしている。したがって、単純に残高だけを見て、その額に驚き、借金はよくないということで、借金を減らすべきであるという見方をする人が多い。しかし、国には多額の資産もあることを認識するならば、借金の額だけで驚く必要はなくなる。
07年6月に出された資産債務改革の工程表によれば、05年度末の政府の資産の合計は、約707兆円である()。「貧乏人にとっての多額の借金」と「金持ちにとっての多額の借金」は意味が異なることを理解すれば、資産が多い日本の借金はそれほど心配しなくてもよくなる。
したがって、政府・財務省が、資産から負債を引いた純資産を示し、その比較で議論せず、あえて負債である国債残高の大きさだけを強調するのは、別の意図が隠されているとみなすべきであろう。最もありそうなことは、政府は近い将来の増税を予定しており、その増税に対する反対の声を抑える役割を期待していることである。
国債残高の累積が、本当に危機的状態であるならば、最初に反応するのは、「国債格付け」と「国債金利」である。
危険な国債については、国債格付けが大幅に低下するはずであるが、日本の国債格付けは一時の低迷から脱し、改善している。
さらに重要なのは、国債金利の高さである。心配されるような国債の金利は、リスクプレミアムを含む形で高くなる。かつてのアルゼンチン債のようにデフォルト(債務不履行)に陥るような国債であれば、その金利は極めて高くならざるをえない。しかし、日本の国債は他の先進国の金利(4~5%台)に比べ、異常に低い金利(10年債で1.5~2.0%程度)を維持している。したがって、金利で見る限り、決して危険な国債とはいえないことになる。
もちろん、日本の公定歩合がゼロ金利政策を実施していたことを無視するわけにはいかないが、すでに日本銀行はゼロ金利政策から脱却しているので、国債金利への影響は少なくなったといえよう。
忍び寄る財政赤字増大の懸念
このように、日本の財政赤字は、削減の努力が続けられる限り問題はない。しかし、08年度予算をめぐり、財政赤字が拡大する可能性が出てきた。その原因の一つ目は、参議院で、民主党が第1党になったことである。07年7月の参議院選挙の民主党のマニフェストは、ばらまき財政を目指す内容であった。二つ目の原因は、小泉内閣の時に「抵抗勢力」となった議員、あるいは選挙区が経済的に低迷している議員が、財政の力による救済を欲していることである。
三つ目の原因は、税収が増加したため、厳しい歳出削減の手を緩めようという見方が出てきたことである。
しかしながら、財政赤字が再度拡大するようなことになれば、財政健全化のための努力が無駄になり、日本政府に対する失望感は大きくなるに違いない。