再エネ重視の「パワーシフトな電力会社」
FoE Japanは、2015年3月に「パワーシフト・キャンペーン」を立ち上げました。このキャンペーンの主な目的は、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどの自然エネルギー、いわゆる再生可能エネルギー(再エネ)の供給が促進されるような制度設計の実現と、再エネの電力会社や地域主体の電力を選びたいといった電力に関する市民の声を可視化することです。
そこでまず、16年4月から電力小売り全面自由化がスタートすること、つまり各家庭で電力会社を選べるようになることを知ってもらうための活動を始めました。具体的には、セミナーやシンポジウムを開催するとともに、全国各地の賛同団体と連携して、学習会の開催やイベント出展で、「パワーシフト宣言」を呼びかけました。
ホームページ(「パワーシフト」で検索」)でこうした活動の報告をしつつ、15年9月からは、実際に再エネを重視する電力会社を「パワーシフトな電力会社」として紹介もしています。16年4月20日現在、ウェブサイトで14社紹介しており、今後も追加予定です。
再エネを重視する電力会社とはいっても、日本では再エネ100%は難しいという側面があります。そこで、「パワーシフトな電力会社」選定にあたって、五つの基準を設けています。
まずは関心を持つことが重要
活動当初は、電力自由化に関しての認知度が低く、情報もまだまだ少ない状態でした。たとえば、「新電力会社と契約しても、もしそこが倒産したら電気が止まってしまうのでは?」と不安を訴える人がいました。これについては、停電の場合は大手電力会社に対応する義務があり、心配はいりません。
他にも、切り替える前に必要な通信機能付きの電力量計(スマートメーター)が原則無料なことを知っている人が少なかったり、新しい電力会社は再エネを電源としているところが多いなど間違った受け止め方をしている人がいたりして、電力自由化の情報を発信する必要性をさらに強く感じました。
電力自由化への関心が高まったのには、新規参入の各社が、価格の安さやお得なサービスを前面に押し出し、アピールしたことが大きく作用しています。実際、マスコミもどちらかというと価格をメインにした切り口での取り上げ方が主でした。
一方で、16年の年明けから、原子力発電所の電気を使いたくない人に向けての情報提供ということで、新聞、テレビ、雑誌などから、パワーシフト・キャンペーンへの取材が多くなりました。
同時に、20人ぐらいの小規模な勉強会から50人程度のイベント、100人以上の大規模なシンポジウムまで、様々なところから講演のご依頼をいただくようになり、関心が徐々に高まっていることを実感しています。
また、立教大学や明治大学、一橋大学でゲストスピーカーとしてお話しさせていただく機会もあり、若い世代にも関心を持ってもらうきっかけになったのではと思っています。
こうした背景には、原子力発電の電気を使いたくない人々が多くいることが理由にあげられます。
16年3月に発表されたNHK世論調査でも、原子力発電所の運転再開に関して、「賛成」が15%、「反対」が44%という結果が出ています。特に野党支持者では62%、無党派層では56%と「反対」が過半数を超えています。与党支持者でも32%と「賛成」の26%を上回っています。
「電気料金が安くなる」は、本当か?
電力自由化のなかでも関心の高い、電気料金の価格についても少し見てみましょう。一般家庭への電力小売りに新しく参入する会社には、ガス会社や石油関連会社、通信関連や小売業・サービス系など、様々な業態があります。自由化の名の通り、価格もそれぞれ自由に設定され、安さが強調されています。この中には、他のサービスとの抱き合わせの「セット割」も含まれています。
料金プランをよく見てみると、節電している家庭や単身者のように電気料金が低めの家庭の場合はむしろ高くなったり、途中解約すると違約金が生じたりすることもあり、注意が必要です。
また、電気をたくさん使う人ほど割安になる料金プランが多いため、省エネに逆効果にならないかと心配しています。
電源構成開示や火力発電所増設など問題点も
電力会社を選ぶ際には、どんな発電所からの電気をどういう割合で調達しているのかの情報も重要です。電源構成の開示があくまで望ましい行為であり、義務ではないため、すでに参入している新電力会社でも、すべてが電源構成の開示を行っているわけではありません。それでも、消費者団体や環境団体からの粘り強い働きかけも功を奏して、少なくとも大手各社では開示に向けた動きが出てきています。しかしまだ、どの時点の情報をどのように開示するのか、その方法や表示方法については各社で異なり、消費者にとってわかりやすい情報とするには、もう少し働きかけが必要です。 また、電力自由化で「安さ」が求められることで、「安い」とされている石炭火力発電所の新増設計画が47基にのぼっていることも忘れてはなりません。これによる発電量は2250万kW(キロワット)で、なんと原発20基分以上に相当します。石炭火力発電は、大気汚染と健康被害に加えて、CO2排出係数が高いことも問題です。その数値は、高効率のものでも0.7kg-CO2/kWh(キロワット時)であり、高効率の天然ガス火力発電の値である0.37kg-CO2/kWhの約2倍になります。
仮に47基すべて建設されると、2030年のエネルギーミックス(安定した供給のためのエネルギーの構成比率)の値「石炭26%」をも上回ってしまいます。
そしてCO2排出を相殺するために、「非化石電源の活用」の目標数字(44%)が打ち出されています。この“非化石”というのが曲者で、ここでいう化石ではない電源とは、再エネと原発を指しています。双方併せての目標値なので、非化石電源を使うことイコール、原発の電気も使うことになります。
つまり、電力自由化によって安さが求められることで、石炭火力発電所増設と原発再稼働を推進してしまうのです。だからこそ私たちは、再エネを重視する姿勢で電力会社を選ぶ必要があります。
「顔の見える電力」と「ご当地電力」
パワーシフトな電力会社は、新規参入でまだまだ小規模なところが多く、電源調達や顧客獲得など、多くのハードルもあります。