もっとも現在は、ODAのような公的資金より、民間資金の方が援助資金の中で大きな割合を占めているので、それを考慮に入れると、2015~30年に生じる不足額は、およそ年間2.5兆ドル(282兆5000億円)となると国連貿易開発会議(UNCTAD)は見込んでいる。
今後国際社会は、世界のODA総額の20倍にも相当する資金を、どうやって捻出しようというのだろうか?
国境に囲まれた主権国家を基本とするウエストファリア体制の限界
深刻化する地球規模課題、増大する巨額の資金不足、そしてこのような状況にもかかわらず、効果的に対処できていないウエストファリア体制の限界。これが第三の明白な現実である。
ウエストファリア体制とは、世界政府がない中で、主権国家が国際秩序を形成、維持していくという原則だが、その体制の問題点は、すでに多くの識者が主張してきたが、その限界がいよいよ明確になってきた。
たとえば、オックスファムが指摘している格差の要因として、大企業や富裕層の租税回避(合法的に税負担を逃れようとする行為)があるが、2016年4月に、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ:International Consortium of Investigative Journalists)が、パナマの法律事務所から漏洩した機密文書を公表したパナマ文書は、世界を驚愕させた。
ロシアのウラジミール・プーチン大統領の側近、中国の習近平国家主席の親族、サッカー選手のリオネル・メッシ、俳優のジャッキー・チェンなど著名な政治家や経営者、セレブが、タックス・ヘイブン(租税回避のできる国や地域)を使って資産隠しや税金逃れをしている実態を白日の下にさらけ出したからである。
さらに、2017年11月には同じく機密文書のパラダイス文書が公表され、マドンナ、U2のボノ、F1界のスーパーレーサーのルイス・ハミルトン、アメリカのウイルバー・ロス商務長官、カナダのジャスティン・トルドー首相の顧問、イギリスのエリザベス女王などの名前が列挙された。企業としては、アップル、ナイキなどのよく知られた多国籍企業や、日本では大手商社などの大企業の名が散見される。
タックス・ヘイブンが問題なのは、まずはその秘匿されている額の大きさである。それはおよそ5000兆円と推測されている。そのために、世界全体で年間31兆9000億~57兆2000億円の税収が失われている。
さらに問題なのは、その秘匿性である。麻薬や犯罪などで稼いだお金であっても、タックス・ヘイブンを通せば「きれいな」お金に変わる。また、そのお金がテロ、犯罪組織、紛争などに流れることになっても、外部からはわからない。
タックス・ヘイブンの問題は、基本的に各国の税務当局は自国の管轄権を超えて課税することが困難という現実から派生している。どれだけ違法であっても、国と国の法の間隙をくぐり抜け、法に抵触さえしなければ、「合法」で済ますことができるのである。ここに、主権国家間の内政不干渉というウエストファリア体制の限界を見て取ることができるだろう。
気候変動に関しては、2015年12月に「パリ協定」が採択され、気候変動の危機を回避するために、今世紀後半には二酸化炭素の排出をゼロにすることで世界が合意した。それでも気候変動の危機を避けるには不十分であるとの議論があるなか、2017年6月、二酸化炭素の最大の排出国の一つであるアメリカのドナルド・トランプ大統領は、パリ協定からの離脱を表明した。そして、国内の石炭産業を擁護することを主張している。これでは二酸化炭素排出ゼロどころか、増加さえ見込まれ、危機的な状況が加速することは避けられない。
このような状況を別の観点から捉えれば、経済、金融、情報、サイバースペース、企業、人の移動などが、易々と国境を超えてグローバル化しているのに対して、政治や税制はいまだ国境の中に閉じこもり、加速化するグローバル化に対応できていないことを如実に示しているということもできよう。