だが3兆円の融資が5兆円、10兆円と膨らんだとき、その返済は難しくならないか。
たとえば、例に出した東北新幹線と上越新幹線は財投で建設されている。これが旧国鉄の債務を最終的に28兆円に膨らませる一因ともなるのだが、注目すべきは28兆円のうちの約16兆円が財投による債務であることだ。28兆円のうち24兆円は今、国民の税金で償還されているのは周知の事実だ。
その反省から、国は財投による新幹線建設をやめ、今の「整備新幹線」方式(国が建設費の3分の2、地方自治体が3分の1を負担し、鉄道機構が建設した後、JR各社が鉄道機構に毎年線路使用料を払う方式)に切り替えたのに、それをまた財投頼みに戻すのだろうか。リニア事業で赤字が生じたら、その尻拭いは税金になるのだろうか。その犠牲と釣り合うだけの計画なのか、マスコミはもっと検証する必要がある。
JR東海の住民軽視の姿勢に立ち上がる市民
今、品川から名古屋までの1都6県(東京、神奈川、山梨、静岡、長野、岐阜、愛知)では、リニア計画に疑念を呈する市民団体はざっと30はある。
これら市民団体が生まれたのは、環境問題への懸念もそうだが、最大理由の一つが、JR東海の住民軽視の姿勢への憤りだった。
騒音、振動、景観、電磁波、生態系の劣化……。これら不安から、住民説明会で住民は真剣な質問を展開する。「水枯れは起こらないのですか?」「騒音はどれくらいになりますか?」「電磁波の影響はどれくらいですか?」。
これら質問にJR東海は常に「影響は小さいと予測します」「環境基準値内なのでご安心ください」といった具体性のない回答に終始。しかも、一度質問した人に再質問は許されず、まだ手が挙がっていても時間になればピタリと閉会する。「ふざけるな!」との怒号を耳にしたのは数知れない。
説明会以外でもJR東海の事務所では住民からの質問を受け付けてはいるが、訪問は3人までに限定され、どんな質問にも決して文書は渡してくれない。
市民から見ると情報隠しにも見えるこの姿勢に「このままではズルズル着工される」と各地で住民が立ち上がったのだ。
2016年5月、市民団体のネットワークである「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」が奔走して集めた738人が、事業認可取り消しを求めて国土交通省を相手取り行政訴訟を起こしたのは当然の流れだった。
2016年9月から始まった裁判は現在、各地の原告による意見陳述の最中だが、早ければ今年、JR東海も「参考人」として出廷する可能性がある。なぜ「影響が小さい」と言えるのか、説明会では決して語られなかったその根拠を原告はJR東海に迫ることになる。この裁判は最後まで見届けたい。
紙面の関係で割愛したが、リニア計画では約5000人の地権者に対して土地や家屋の明け渡しが求められる予定だ。昨年末も、JR東海は神奈川県相模原市のマンションの全44世帯に立ち退きを求めた。そんな事例はこれから続々と出てくるはずだ。だが一方で、立ち木トラストや土地トラストなどで土地の明け渡しを拒む住民も現れている。
かつてない巨大工事に付随する甚大な環境問題と社会問題。抗う人々。マスコミが報道しなくても、私は最後までこの問題を追いかけたい。